JSAG國井修会長による講演会 8/31
JSAG國井修会長による講演会
2015年8月31日、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部において、JSAGの國井修会長による講演会「グローバルヘルス 現場で求められていること、世界でこれから求められていくこと」が開催されました。日本の千葉大学の大学院の学生さんたちがジュネーブの国連・国際機関を訪問され、代表部からのご好意で講演会に引き続いて懇親会を開催していただきました。
國井会長からは、紛争地帯や感染症のパンデミックが発生している地域でのご経験から、その現状と保健医療援助を行う際の課題、必要とされる援助のあり方、さらに現在お勤めのグローバルファンドが取り組んできた世界でのエイズ、結核、マラリア対策の成果や今後の課題・目標などについて熱く語っていただきました。
「グローバルヘルス 現場で求められていること、世界でこれから求められていくこと」
医学生のころからインドシナの難民キャンプやソマリアの紛争被災民などに医療ボランティアに行き、医師になってからも、NGOやJICA、大学、国連(ユニセフ)などを通じて、世界の様々な紛争地、被災地、辺地での緊急援助、感染症対策、母子保健などに従事してきた。講演会では様々な現場の写真を示しながら、カンボジア、ソマリアの内戦で何がおこっていたのか、ネパールの僻地で、アフガニスタンの内戦後の社会で、インドネシアの環境破壊で、バングラデシュの水害でどんな保健医療問題があったのか、具体的な事例が説明された。特に、女性の権利が制限される国、歩いて半日以上かけないと医療機関にいけない地域での問題、援助で病院を建設した後に引き起こされた問題など、興味深い内容であった。
2014年にはエボラ熱流行が大問題となったが、アフリカでは今でもエイズ、結核、マラリアがエボラ以上の脅威を与えている。2014年の一年間でエボラにより約8000人が亡くなったが、エイズではアフリカだけでも年間100万人以上、マラリア・結核を含めると年間180万人以上が亡くなっている。
現場で肌で感じたというが、エイズで多くの人が亡くなっていた1990年代のアフリカの現場には驚愕したという。Life
expectancyが20歳近く下がってしまった国もある。2000年には国連安全保障理事会で初めて健康問題であるエイズが世界の安全保障の課題に取り上げられ、7月の沖縄サミットでも世界の感染症問題が主要議題に挙がった。これを契機にGlobal Fundが2002年に設立された。
多くのドナーが資金を提供する代わりに、具体的な成果を求められ、イノベーションを期待された。その結果、この十数年間で140カ国以上で予防・治療・ケア・サポートが拡大し、救った命は1000万人以上に上るといわれる。
もちろん、課題も多い。エイズでは死亡率・新規感染率が下がった国は多いが、増えている国もある。マラリア流行は再燃しやすく、多くの国や地域で手を緩めたために再興した失敗例がある。最近では薬剤耐性マラリアや薬剤処理した蚊帳に抵抗力のある蚊も現れ、国境を越えた対策が必要である。結核では、診断・報告されていないケースが300万人にも上り、多剤耐性菌も広がりつつあることなどが問題となっている。
現在、これらの3大感染症を2030年までに制圧する(End
epidemics as
public health concern)にはどうすべきかをパートナー機関(WHOやUNAIDSなど)と共に議論・計画している。それには戦略的投資、シナジー、イノベーションなど5つの要素が必要と考える。それぞれについて説明がなされた。
この目標は野心的と思われるが、不可能ではない。ただし、国際的な努力と責任の共有が必要。それに必要な資金や資源の動員は不可欠だが、今後は先進国から途上国への援助といった伝統的な援助の形だけでなく、低・中所得国の自助努力、能力強化、新興国の役割強化なども重要である。
グローバルファンドで議論されている次期戦略の中心課題が示された後、MDGs(ミレニアム開発目標)からSDGs(持続可能な開発目標)に移行する現在、グローバルヘルスには今後どのような潮流が作られていくのかが問いかけられながら講義が終了した。
質疑応答(一部)
Q: 現場に入り、切迫した事態になって「これはまずい」となった時、どう対応するのか。
A: まずは平時からリスク管理をしておくこと。現場で起こりうるリスクを評価し、その対応について事前に計画しておく。安全管理については専門のスタッフを雇って準備と対応をしておく。安全管理に関するスタッフ教育・訓練も重要。これにしたがって「これはまずい」という状況に応じて、スタッフが判断し、本人が対応できない場合は安全管理者に任せる。カージャックに遭遇した時、紛争地帯や地雷エリアに足を踏む込んでしまった時など、私自身はそれを想定したトレーニングを受けてきたが、そのようなリスクを伴う場所で支援する場合は、組織として安全対策を行う義務がある。
Q: 現地の、文化・宗教上の違いからくる困難にぶつかったときにはどうしたらいいのか。
A: 状況分析などができる専門家と共に、現地の人々の参加の下に改善策を考え、試行錯誤でやっていく。たとえばエボラの場合、現地の葬式の風習が感染を拡大する原因になっていた。現地の人々にとって、その問題をどう捉え、文化・風習をどのように位置づけ、どこにどのような価値があるのかなどを理解することがまず重要。それに基に、現地の村長や保健担当者など国や地域のキーパースンを中心に議論してもらい、改善策を考えてもらう。たとえば、村の長老などから村人に協力を呼びかける、女性たちを集めて女性に家庭の中から変えてもらうなど、その場その場でやり方は異なり、すぐにうまくはいかないかもしれないが、何がうまくいって何がうまくいかないかを分析しながら、試行錯誤で前進させるしかない。困難だが不可能ではない。現場には必ず解答があると信じている。
國井修氏 (世界エイズ・結核・マラリア対策基金(通称 グローバルファンド) 戦略・投資・効果局長)
1988年自治医大卒。栃木県の山間へき地で診療する傍ら,国際緊急援助や在日外国人医療援助に従事。米ハーバード大公衆衛生大学院留学を経て,自治医大助手,国立国際医療研究センター,ブラジル(JICA専門家),東大講師,2001年より外務省。04年長崎大熱帯医学研究所教授,06年からユニセフ(国連児童基金)。ニューヨーク本部,ミャンマー国事務所を経て,10年にソマリア支援センターへ勤務。内戦中,飢饉で苦しむ同国で子どもの死亡低減のための保健・栄養・水衛生事業を統括した。13年より現職(スイス・ジュネーブ在住)。著書に,『国家救援医――私は破綻国家の医師になった』(角川書店),『災害時の公衆衛生――私たちにできること』(南山堂)などがある。
1988年自治医大卒。栃木県の山間へき地で診療する傍ら,国際緊急援助や在日外国人医療援助に従事。米ハーバード大公衆衛生大学院留学を経て,自治医大助手,国立国際医療研究センター,ブラジル(JICA専門家),東大講師,2001年より外務省。04年長崎大熱帯医学研究所教授,06年からユニセフ(国連児童基金)。ニューヨーク本部,ミャンマー国事務所を経て,10年にソマリア支援センターへ勤務。内戦中,飢饉で苦しむ同国で子どもの死亡低減のための保健・栄養・水衛生事業を統括した。13年より現職(スイス・ジュネーブ在住)。著書に,『国家救援医――私は破綻国家の医師になった』(角川書店),『災害時の公衆衛生――私たちにできること』(南山堂)などがある。
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