国際機関邦人職員インタビュー第2回:石垣和子さん UNISDRエコノミスト

0 件のコメント

国際機関邦人職員インタビュー第2回は、今年3月に仙台で開かれた国連世界防災会議をコーディネートした国連国際防災戦略事務局(UNISDR)本部で働く石垣和子さんにお話を伺いしました。石垣さんはUNISDR着任以前は国土交通省や内閣府で働いており、東日本大震災後の防災基本計画の改正に関わったことから、「日本の教訓を世界に伝えるとともに、世界の防災政策に貢献したい」と、2012年からUNISDRでエコノミストとして働き始めました。インタビューでは、防災会議についてだけでなく、頻繁に海外出張がある中で、いかに小学生の娘さんの子育てと仕事との両立を図ってきたかについてもお聞きしました。 (聞き手:黒岩揺光)

黒岩:UNISDRではどんなお仕事を?

石垣:着任してから具体的にわかったのですが、私が応募したポストの仕事は、災害リスクを加味した公共投資計画の立案について途上国の財務省関係者を対象にした研修を企画・実施するというもので、エコノミストとしては面白い仕事でした。しかし、この仕事だけでは仙台の会議に深く関われないと思い、2013年半ばから、世界約100か国からUNISDRに提出される防災政策の現状レポートを分析し、世界共通の課題を抽出して一冊の本にまとめる仕事を企画し、昨年、その本を刊行しました。この本がきっかけとなり、仙台防災枠組みにおける各国の目標数値達成の進捗状況をモニタリングするシステム構築を私が担当することになりました。それで昨年半ばから、専門家委会合、加盟国間での会合などをオーガナイズし、これが、仙台会議におけるこのテーマの特別セッションという形で昇華しました。現在も、仙台後の加盟国間の協議に向けた文書の立案を行っております。

黒岩:何もないところから自分でプロジェクトを立ち上げたわけですね。

石垣:国連で大事なのは、自分で企画する力だと思います。まず、同僚の皆さんがどんな仕事をしているのか把握し、必要ではあるが誰もやっていない仕事を特定して、それを自分の仕事として立ち上げる。

黒岩:具体的には、石垣さんは、どのようにその企画を特定したのですか?

石垣: 100カ国近くが報告書を出しているのに、UNISDRでは職員はみな忙しく、かつ政府で長く勤務した経験がある人がいないため、法律や公共政策の基本的仕組みを理解した上でしっかり政策分析できる人がいませんでした。それに、私は途上国での勤務経験がないので、途上国のことを知る良い機会になるとも思いました。この企画はUNISDRや世界各国だけでなく、わが国はもちろん、自分自身の勉強のためにもなると信じて推進してきたので、きちんとした形になりつつあることをうれしく思います。

黒岩:私も、石垣さんの様に新しいプロジェクトを立ち上げてみたいのですが、同僚と縄張り争いになってしまうのを恐れて、躊躇してしまうことがあります。

石垣:基本的には、誰も手をつけていないけれど重要なテーマを見つけ出すことが大事だと思います。そうは思っていても、私も、同僚の業務とかぶってしまうことがあって、その時は少々揉めました。でも、普段から「いい人」として、同僚と信頼関係を養っておくことが結局は大事だと思います。相手の仕事を奪うつもりはなく、世界にとって必要だけどあなたは忙しくてできないだろうから私がかわりにやりましょうと無私の心で論理的に説明することが必要です。一方で、このような場合は特に、出版物なり会議なり何かしら目に見える成果を出し、それを「自分の成果」としてしっかりアピールすることが大事です。自分がやった仕事なのに結局は本来の担当者がやったというように思われたのでは、やはり不当ですから。「いい人」と「お人好し」は異なるので、和を大事にしつつも、自分の意見が論理的であると思えば人と対立してでも主張できる強さが国際社会では求められると思います。
                         (ジュネーブの国連欧州本部内を歩く石垣さん)

黒岩:石垣さんは国連職員であると同時に、シングルマザーでもあります。海外出張が多いなか、子育てはどうされているのですか?

石垣:最低月1回は海外出張があるので、常日頃からベビーシッターさん候補を探しておきました。できれば日本人がいいので、日本からの交換留学生をヘッドハンティングしたり、日本語補習校での子どもの同級生の家に預かっていただいたりしてなんとかこれまでしのいできました。特に大変だったのは、仙台防災会議の前の半年ほど、UNISDR神戸事務所長代理を務めることになり、月半分は東京で日本政府との調整業務をしていた頃です。防災投資の研修の仕事も通常通り続いており、ジュネーブにいることが月5日程度という時もありました。その時は、東京の実家の母にジュネーブに来てもらって、娘の世話をしてもらいました。

黒岩:娘さんに悪いという気持ちもあったりするんですか。

石垣:子どもって、すごく親想いなんですよ。親が子どもを想うより、子どもが親を想う気持ちのほうが強いように感じます。例えば、私の実家の母は、私が頻繁に海外出張に行くことを「子どもをほっぽって仕事ばかりして」と私を痛烈に批判することがあるのですが、それに対して、娘が「そんなことはない。ママは私の学校のこともちゃんとやってるよ」ってかばってくれたりするんです。でも、親はそういう子どもの優しい気持ちにあぐらをかいて甘えてはいけないと思っています。だから、出張に出かけるときは胸が痛くなりますし、帰ってくればどんなに仕事が忙しくても娘の話を聞く時間をできるかぎりとるようにしています。親の私の勝手な都合かもしれませんが、こういう経験で親の私も娘も、またその間の信頼関係も強くなればいいとは願っています。

黒岩:国連を目指す若者が減っています。

石垣:国連の特徴は、色々な国籍の職員が入り混じっていること。民間の多国籍企業の社員も多国籍だとは思いますが、基本、本社がある国の人たちが上層部を占めると思います。国連は本当に上から下まで多国籍です。様々な文化が入り交じった職場というのは、軋轢もあれば、おもしろいこともあります。社会人を15年やって、一番怒ったのも国連なら、一番おもしろいと思ったのも国連です。感情が豊かになって、人生がカラフルになると思います。一回しかない人生ならカラフルな経験をしたいと思いませんか?

参考リンク:

UNISDRに関して知りたい方は http://www.unisdr.org/kobe/about



インタビュー後感想:娘さんが石垣さんをかばう話をされた際、石垣さんの目に涙が溜まり、私も、もらい泣きしそうになった。私の妻も国連職員で、結婚後も3年別居生活だった。その後、私が仕事を辞め、1年間、妻に寄り添い、その後、妻が特別休暇を取って、半年、私に寄り添った。一見華やかな国際会議の舞台裏には、会議を支える職員たちの日々の家族との葛藤があるのである。

聞き手プロフィール:黒岩揺光 国連難民高等弁務官事務所ジュネーブ本部にてアソシエートプログラム担当官。元毎日新聞記者。ケニアのダダーブ難民キャンプで国連機関やNGOで2年8ヶ月働く。




0 件のコメント :

コメントを投稿