国際機関邦人職員インタビュー 世界保健機関(WHO) 濱田 洋平さん
WHO グローバル結核プログラム テクニカルオフィサー(JPO)
濱田 洋平
もともと国際保健に興味があり、医学部を卒業後、内科の臨床研修の2年間を経て、感染症の研修を3年間行いました。研修期間中のHIV患者さんの診療を通して感じたのが、現在のHIVの治療薬は非常に進歩しており、早期にHIVが診断され、病院を受診し、標準的な治療を受ければ、ほとんどの場合は寿命を全うする事ができるということです。しかし、残念ながらHIVの発見、病院受診が遅れたためだけに命を落とす人々が日本でも未だに多くいます。また、途上国では先進国での標準的な治療薬もなかなか使うことができません。これらの事は医師の診療だけで解決できる問題ではありません。よって、どのようにしたらすでに確立した最適な治療を届ける事ができるのかと考えるようになりました。また臨床研修の期間中に、HIV検査、カウンセリングの質を改善するというJICAによるケニアでのプロジェクトにインターンとして2ヶ月間関わる機会を得ることができました。それまでの患者さんを診るという経験とは全く異なるものでしたが、とても興味深く感じました。そのような経験から公衆衛生についてより学んでみたいと思い、公衆衛生の修士号を取得したのち、WHO本部のグローバル結核プログラムにJPOとして着任することになりました。
業務内容について教えてください
業務はいろいろとありますが、ここ最近の主なものは、潜在性結核に関する新しいガイドラインの作成です。最近までは潜在性結核の治療というのは6ヶ月間毎日薬を飲む必要がありましたが、ここ最近になって3ヶ月間、週一回の内服ですむ治療が確立され、米国などの一部の国で使われるようになりました。しかし、途上国ではその使用に関するWHOの推奨はなく、未だに6ヶ月間の内服治療が行われています。そこで、これに関する新しい推奨を含めて、最新の知見に基づいた潜在性結核の診断、治療の新たなガイドラインを作成する事になり、主任担当者として関わることになりました。その作成のプロセスが2016年の6月に始まり、専門家会議などを経て、2017年9月にようやくWHOのガイドライン審査委員会への最終稿の提出にこぎつける事ができました。それに至るまではガイドライン作成部会の裏方としての非常に地道かつ時に地味な作業です。例えばガイドラインのプロポーザル作成、ガイドライン委員会に招聘する専門家の候補者のリストアップ、専門家との連絡や、会議の運営などです。また、推奨の根拠(エビデンス)を検討するための、論文の総括的レビューを自身でも担当し、PCの画面でひたすら論文を読むことが続くこともありました。このような仕事は実際に患者さんを診ることとくらべると日々の手応えはやや感じにくいものがあります。しかし、すべての下準備を終えてガイドライン作成会議が開催され、各国からの多種多様な専門家とともに、ベストな潜在性結核の診断、治療を真剣に議論し、推奨ができあがった時はとても感慨深かったです。また、実際に作成したガイドラインにより潜在性結核のよりよい治療方法を多くの人々に届ける事ができるかもしれません。このようなところがWHOで働くことの醍醐味であると思います。
WHOでの勤務を目指すにはどのようなキャリアが求められると思いますか
医学生などでWHOのインターンに来る人たちに必ず聞かれるのが、どのくらい臨床経験を積むべきかということです。これは自分自身もよく考えました。答えは様々だと思いますが自分なりに感じたことを示したいと思います。
WHOでの職務は臨床経験が求められないことも多く、必須ではありません。むしろ、臨床経験だけでは不十分と言ってよいでしょう。しかし、だからといって臨床経験が全く役に立たないわけではなく、業務内容によっては求められる事もありますし、ガイドラインの作成や専門家との議論の際に役立つこともありました。臨床経験はあくまで、疫学、統計、プロジェクトマネージメント、経済分析、発展途上国での実務経験などの数ある強みのなかの一つだと思います。WHOでもポストによって多種多様なスキル、経験が要求されるので、臨床経験がなくても他の強みを活かす事ができると思いますし、逆に臨床経験が活かされる場合もあるでしょう。ですので結局は自分に合ったスキル、経験を磨きながら、臨機応変にその時点でのベストと思える選択をしていくということに尽きると思います。これから国際機関でのキャリアを目指す人々の成功を祈念いたします。
経歴
長崎大学医学部医学科卒業。国立国際医療研究センター内科初期研修、感染症後期研修を経て2015年3月から2017年11月までJPOとしてWHOグローバル結核プログラムに勤務。医師、公衆衛生学修士。
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