JSAG勉強会「国際機関幹部職員の仕事と必要とされる能力・資質」:WHO山本尚子事務局長補

9月17日(火)にWHO会議室にて、WHOの山本尚子事務局長補をお招きして勉強会を開催しました。勉強会は国際機関の幹部職員の増強が課題となっている中、幹部職員の方はどのようなお仕事をされているのか、どのような一日を過ごしているのか、また、幹部職員に必要とされる能力や資質などについてお話を伺うという狙いのもと企画されました。


山本事務局長補は2017年に就任したWHOのテドロス事務局長の新体制の下、事務局長補としてご活躍されています。ジュネーブに赴任される前は厚生労働省の国際保健担当の大臣官房総括審議官(局長級)としてG7や国連総会、その他国際会議の場でもご活躍をされてきました。勉強会では冒頭に現在担当されているHealthier Populationsという部局の扱う内容についてご説明を頂き、テドロス事務局長による新体制の下、新しい部局を組織として整備していく過程の大変さについて具体的な例も交えてお話し頂きました。

次に日々の業務の内訳について以下のようにご説明を頂きました。現在のポストに就任されてから2年目になりますが、1年目はどうしても日々のメールのやり取りに半分ぐらいの時間が取られてしまったものの、次第に慣れてくるようになったとおっしゃっていたのが印象的でした。

  • 25%:組織の在り方や予算の配分などについて考えるシニアマネジメント業務
  • 25%:上記に基づいて組織として現場を動かせるようにするべく、スタッフと共有する業務
  • 20%:各国代表部や他の国際機関、NGO/CSOなどとのやり取りや資金集めを行う広報・渉外業務
  • 15%:国際会議への出席
  • 5%:職員の悩みや不満などについて相談を受ける業務
  • 5%:地域事務所や国事務所との連携業務
  • 5%:その他

その後、幹部職員に求められる力として、以下の四つを具体的なエピソードなども交えてご説明頂きました。

 1) ポジティブな思考に基づいて行動や発信する力
 2) 与えられた箱の中を綺麗に整備するのではなく、箱そのものを作り、かつそれを組織的に動かす仕組みを作る力
 3) 決定をする意思の力
 4) 相手の立場に立って、客観的に総合的に物事を見る力

また、若手職員に必要だと思う姿勢としては、ご自身の採用側としてのご経験等も踏まえて、以下を挙げられました。

 1) 採用のプロセスにあたっては、しっかりと準備をすること。特に求められているコンピテンシーについてエピソードを考えておくこと
 2) キャリアプランを立てるにあたっては最初から決めすぎてしまうのではなく、柔軟性をもたせること
 3) シャイになるのではなく、やりたいことを積極的にアピールすること
 4) 国際機関は日本の省庁などとは違ってキャリアプランを考えてくれないので、大変だが自分でキャリアをデザインしていくこと

最後の質疑応答では、国際機関と日本政府の利害のバランスをどう取っているか、最新の専門分野の情報にどうキャッチアップしているか、他の事務局長補やディレクターとのやり取りで気をつけていること、ご自身が国際機関の職員として足りないと思ったスキル、事務局長補の裁量についての説明と判断に迷った時の対処法、ディスカッションを促進するために心がけていること、これまでのキャリアの様々な段階でご担当されていたお仕事などについて、お話を頂きました。30名もの参加者が集まり、質疑応答も当初予定していた時間を超える、大変活発で有意義な勉強会となりました。



JSAG勉強会「世界銀行のオペレーションと他の国際機関との協働について」:世界銀行 Jos Verbeek氏


8月28日(水)にILO会議室にて、世界銀行ジュネーブ事務所長のJos Verbeek氏をお招きして勉強会を開催しました。勉強会は世界銀行のオペレーションについて学び、JSAG会員の所属する機関との協働を促進するという狙いのもとに企画されました。


Verbeek氏は30年近くに渡り世界銀行にて主にエコノミストとして活躍しており、現在はジュネーブにある国際機関とのパートナーシップを担当しています。ジュネーブに赴任前はワシントンDCの世界銀行本部にてSDGs分野における副総裁のアドバイザーを務めていました。冒頭に世界銀行ジュネーブ事務所についての説明があり、現在は約10人程度の人員で、主にSDGs達成に向けた他の国際機関とのパートナーシップ(エボラ、災害リスク対策など)を取り扱っているとのことでした。その後、世界銀行のミッション及びその進捗状況や組織構成、役割の変遷、予算規模などについて説明がありましたが、Verbeek氏が世界銀行本部にいた際にこれらの組織運営の中枢にも関わっていたことから、様々な意思決定に関する実際のエピソードなども織り交ぜて頂き、貴重なお話を聞くことができました。

その後、国連とのパートナーシップにトピックが移り、2018年に世界銀行のジム・キム前総裁と国連のアントニオ・グテーレス事務総長との間で締結された、SDGs達成に向けての協働についての合意文書であるWBG-UN Strategic Partnership Framework (SPF)[1]や国連グループの各機関と専門分野での協働をするべく締結されたOperational MOU(あるいはCorporate MOU)[2]についての説明がありました。Operational MOUについては、現在UNHCR、IOM、OHCA、WHO、WFP、FAO、UNICEFと締結済みで、ITU、UNESCO、UNFPA、UNWTOも今後締結予定だそうです。そして、これらのパートナーシップに合わせて、世界銀行と国連グループの各機関との交流も幹部や実務レベルの両方で盛んになってきているようです。また、パートナーシップのような比較的大きな協働の枠組み以外にも様々なInter-agency会合やタスクフォース、joint actionなどがこれまでに実施されており、また世界銀行の資金を投入する国連との協働スキームである、Direct financing(世界銀行→国連)[3]とIndirect financing(世界銀行→政府→国連)[4]の二種類について説明を頂きました。世界銀行と国連のパートナーシップについては、特に世界銀行のジム・キム前総裁と国連の潘基文前事務総長の時代に、二人の関係が極めて良好だったことから、より活発になったというお話が印象に残りました。

最後の質疑応答では、世界銀行は人権などの政治的な分野では活動ができないこと、比較的所得が高い国へのサポートはmandateに含まれていないので実施できないこと、国連とのパートナーシップについてのVerbeek氏の体験談、UNHCRとの難民分野でのパートナーシップの具体的内容、国際機関以外、例えばICRCとも協働をしていることなどについて、お話を頂きました。当初予定していた時間を超え、講師と参加者の間で活発なやり取りが交わされた有意義な勉強会となりました。


[1] https://www.worldbank.org/en/news/press-release/2018/05/18/un-world-bank-group-joint-statement-on-signing-of-a-strategic-partnership-framework-for-the-2030-agenda
[2] WBG-UNHCR Operational MOU例: https://www.worldbank.org/en/news/feature/2018/04/20/world-bank-group-unhcr-sign-memorandum-to-establish-joint-data-center-on-forced-displacement 

[3] 世界銀行の資金を直接国連機関が用いてプロジェクトなどを実施するもの
[4] 世界銀行が政府に貸し付けた資金などを用いて国連機関がプロジェクトなどを実施するもの

群馬県立中央中等教育学校のジュネーブ訪問

2019年8月19日~22日にかけて、群馬県立中央中等教育学校の3、4年生22名、および同校教諭2名がジュネーブの国連・国際機関を訪問されました。本研修は、国際社会の課題や解決手段、さらに国連・国際機関で働く意義や喜びについて学び、グローバル・リーダーとしての意識と資質を高めることを目的としています。

今回は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、国際労働機関(ILO)、世界保健機関(WHO)の3機関を訪問されました。


UNHCRでは、村井瑛未財務副担当官と赤崎元太パートナーシップ副担当官から、UNHCRの組織・活動内容についての講義の後、現在の仕事内容やこれまでの経験が紹介されました。学生からは、「国内避難民の人が国境を越えられない理由は何か」「難民受け入れ先の政府に資金的支援はするのか」「JPO(※外務省の邦人若手職員派遣制度)の試験ではどのようなことが問われるのか」など、活発に質問が挙げられました。

ILOでは、企業局中小企業ユニットの及部周介技官より、ILOの組織・活動概要、中小企業ユニットでの仕事内容について講義が行われました。質疑応答では、日本が未批准の国際労働条約について、どのような理由・背景があるのかなど、様々な質問が挙げられました。

講義後は、ILOの若手職員と昼食をとりながら、国連機関での仕事やこれまでの経歴についてざっくばらんに意見交換を行いました。


WHOでは、EBルームにおいて、WHO Briefing Centre, Health and Multilateral PartnershipsのDorine van der Wal担当官より、公衆衛生、感染症、生活習慣病等の対策といったWHOの活動内容について、対話形式で、英語で説明がなされました。次にエボラ対応の最前線で活躍する井澤有里絵技官より、具体的な仕事内容について講義が行われ、生徒からも、「なぜコンゴでエボラ感染が起こるのか」「派遣されるチームの人数は」「緊急事態宣言がなされるのはどのような場合か」など、積極的に質問がなされました。


「少年少女国連大使育成事業」ジュネーブ訪問

2019年7月30日、公益社団法人日本青年会議所が主催する「少年少女国連大使育成事業」の参加学生(日本の中学1年生~高校3年生)33名、および同会議所メンバー23名がジュネーブの国連機関を訪問されました。本事業は、国連持続可能な開発目標(SDGs)について海外研修を通じて学び、帰国後各地域でSDGsに関する啓蒙活動を実施することで、参加学生が国際協力の担い手として成長することを目的としています。

今回は、国際労働機関(ILO)、世界保健機関(WHO)、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の3機関を訪問されました。

ILOでは、館内見学後、野口好恵上級労働法専門官からILOの組織およびディーセント・ワーク(SDG8)実現に向けた活動内容について講義が行われました。

中でも、ILO中核的労働基準に含まれる児童労働・強制労働の撲滅(SDG8.7)について、現在の課題やILOの役割が詳しく紹介されました。学生からは、「各国の労働者・使用者代表はどのように選出されるのか」「明日食べる物にも困っている家族が児童労働をやめるにはどうすればよいのか」「先進国に住む人々は途上国での児童労働や強制労働の撲滅のために何ができるのか」など積極的に質問が挙げられました。

UNHCRでは、村井瑛未財務副担当官と赤崎元太パートナーシップ副担当官から、UNHCRの組織や活動内容についての講義の後、現在の仕事内容やこれまでの経験が紹介されました。

学生からは、「難民発生を未然に防ぐ取り組みはあるか」「現地政府の取り組みはどのように支援しているか」「難民が来ることによる影響や差別を取り除く活動は行っているか」などの質問があり、講義後も質問の列ができるほど熱心な様子が見られました。

WHOでは、館内見学後、谷村忠幸技官からWHOの概要について講義が行われました。さらに渡部明人技官から、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)とSDGsの関連、WHOの取り組みについて詳しく紹介され、活発な質疑応答が行われました。




一行はジュネーブの後、持続可能な都市開発のモデル都市であるスウェーデン・マルメ市にも訪問し、行政・民間企業による事業を見学後、日本に無事帰国されました。参加学生は本研修を元に、各自の地域でSDGsに関する啓蒙活動に取り組まれる予定です。

国際機関邦人職員インタビュー 女性のキャリア形成座談会

今回は、現在ご活躍中の2人の邦人職員、世界知的所有権機関 (WIPO) 斉藤香織さん、国際連合児童基金 (UNICEF) 山科真澄さんに「女性のキャリア形成」をテーマにお話を伺いました。
(写真左:山科さん、写真右:斉藤さん)

聞き手:古川友理さん (国連環境計画(UNEP) インターン/ Smith College在籍)

これまでの経歴

(古川)
現在に至るまでの職歴を教えてください。

(斉藤)
大学、大学院(公衆衛生学)を卒業してから、JPO (Junior Professional Officer)派遣制度 で国連難民高等弁務官事務所 (UNHCR) に入りました。ミャンマーで働き、その後は世界食糧計画 (WFP) に移ってアンゴラで働き、それからUNHCRに戻ってグルジアで勤務しました。9.11の後にはパキスタンで緊急援助、そしてザンビアで難民キャンプのキャンプマネジメント、コロンビアで国内避難民の援助をした後、一旦落ち着、国際人権法を勉強するためロンドンに移動しました。無給休暇を取ったのですが、アンオフィシャルな理由としてはこの辺で人生のパートナーを見つけようかと(笑)。ただしロンドンでは見つからなかったため、次はフランス語を勉強するためパリに移り、現在の夫と出会いました。その後ジュネーブのUNHCRのポストにつくことができ、子供もここで生まれました。幼い子供を抱えて途上国にいくのは不安だったので、ジュネーブで働き続けられるポストはないかと探していたところ、WIPOで新しく創設された「ジェンダーと多様性の担当官(Gender and Diversity Specialist)」のポストを得ることができました。それからWIPOでは6年働いています。

(山科)
大学、大学院と国際人権法を勉強しながら、日本国内で国内人権機関の設立を目指すNGOで研究者としてインターンをしていました。その間、人権法の研究者より自分はプログラムをする方があっているなと思ったので、大学院を卒業、法律事務所で勤務後、東京NGOに勤めてすぐにアフガニスタンに行きました。その後は日本赤十字でスリランカの津波の復興支援と内戦の復興支援を行い、国際赤十字赤新月社連盟(IFRC)で中国の四川大地震の復興に携わりました。スリランカの時から、緊急支援というのは癌患者にファーストエイドをしているようなものだと思い、開発に移りたいと考え、UNICEFのジンバブエオフィスでJPOして勤務しました。ジンバブエでは3年半過ごし、その後南スーダンに移り2年4か月勤務した後ユニセフを一旦退職し、フランスでフランス語の勉強を一年ほどした後、コンサルタントをしたりして、現在UNICEFジュネーブ事務所におります。

(古川)
どうして国際機関を選ばれたのですか。

(山科)
小学5年生の頃からアフリカにいく、と書いていました。湾岸戦争の映像をみて何かしなくてはと感じ、どうやったらこういう仕事につくのか探していたら、「国際公務員になるためには」という本を見つけ、そこへの迷いはその時からなかったんです。でもどの機関に行きたいのか、何がしたいのか、という迷いはありました。

(斉藤)
大学生の時にメキシコでのボランティアをしました。簡易トイレを作り歯ブラシを配りながら地元の女性や子供たちと公衆衛生の大切さについて話し合いました。その時の経験がきっかけだったのと、より大きなインパクトを生み出したいという思いから、一つの選択肢として国連を目指すことにしました。  国際協力機構(JICA) にも応募していました。国際援助をしたい、という思いがあって、それができるようになるためには何をしたらいいかを考えたときに国連がありました。

キャリア選択の軸
〜若い頃は与えられたものにベストを尽くし、選択肢が増えてきたら自分の心に正直に〜

(古川)
お二人とも様々なご経験がありますが、何を軸にキャリアを選択されましたか。

(斉藤)
一番大きかったのは自分の気持ちかなと思います。選択肢が沢山あった訳ではないし、挫折もありました。自分のベストを尽くしつつ、選択の余地がある時は自分の気持ちがどっちに沿っていくのかを考えて決める、ということだと思います。

 選択ということで最近悩んだのは、このままWIPOに残るか、UNHCRに戻るか、ということでした。この決定は100%自分の意思にかかっていたので、それはもう2年くらい毎日のように考えていました。でも結局、UNHCRに戻ることを決意しました。その時、波立っていた自分の心が、湖の表面がスーッと凪いだように静かな気持ちになりました。決断した時、正しい選択をしたと思えました。それまではずっと長いPros and Cons (良い面と悪い面の)リストを作ってみたり、いろんなことをしてみたりしたんですが、結局納得できる決断ができました。

山科)


そうですね、わかります。私も少し似ているのですが、最初は国際機関とか国連とかまず何も知らず、大学院のあたりからずっとポストに応募していたのですが、だんだん大学を卒業してすぐに国連に入れるほど甘くはないということがわかって、卒業後収入を得るためにも、まずは東京にあるイギリスの法律事務所に入りました。英語で仕事をしたことがないので、英語で仕事をするマナーを知りたいと思ったためです。その仕事をしながら、様々なNGOにたくさん応募しました。なにをしたいというより、とにかくってくれて、給料を払ってくれる団体であればどこでもいいということで、ベストを尽くしました。外からみてるのと中からみてるのは違うので、与えられたものの中でベストを尽くして、その中でどうやって自分のしたいものにつなげていくか、という感じでした。JPOのときはすごくラッキーでチョイスがあったので私の中で国連人権高等弁務官事務所(OHCHR) UNICEFUNHCRか、その三つでした。自分に近いマンデートを考えたとき子供か難民なのか、というところで子供の方がしっくりきたのでUNICEFに決めました。UNICEFに入る前もフィールドで働いていた経験があったこともあり、グローバルレベルではどうやって意思決定がされているのか、なぜフイールドと本部で乖離があるのだろうと思ったので、フィールドからグローバルレベルにきました。今はもうわかったので、カントリーオフィスに戻りたい気持ちがあります。

やはりやってみないとわからないですね。若いうちは選べないからとにかく頑張る、そして頑張ったらやっと選べるようになるので、自分を信じて、そして自分の人生に絡めながら決めていくことが大切かと思います。

出産、子育てとキャリアの両立について

(古川)
フィールドからグローバルオフィスに移られたというお話がありますが、フィールドで出産、育児をしていくのは様々な壁があるかと思います。斉藤さんもそういった理由があって、ジュネーブに残られたのでしょうか?

(斉藤)
そうですね。UNHCRの場合、本部のオフィスで5年間勤務したあとは転勤でフィールドのオフィスにいくという決まりになっておりますので、その際少し躊躇がありました。この時たまたまWIPOの仕事で採用してもらえたので、ジュネーブに残りました。

(古川)
出産、育児という観点から、これから国連職員を目指す特に女性に何かメッセージはありますか。 

(山科)
私は子供はいないですが、欲しいので、逆にジュネーブからカントリーオフィスに戻ろうと思ってます。UNICEFのカントリーオフィスであれば、家族で行ける勤務地も多いので子供が育てやすいことがあります。ジュネーブでは物価が高くなってしまうのに加え、そういったカントリーオフスの方がジュネーブでは受けられないサポートがいくつもあることも理由です。そういう意味では、フィールドで子育てができない、ということではなく、色々なチョイスがあります。

(斉藤)
その通りで、場所にもよりますが、フィールドの方が金銭的には安い対価で子育てや家事のサポートを得られることが多いと思います。フルタイムのヘルパーさんに子供の面倒をみてもらうこともできます。これはジュネーブではお金がかかりすぎてとても出来ません。そういう意味では、国連職員として子育てをしていく上で、これが絶対に必要ということはないですが、やはりいいパートナーがいたら助かります。もう一つは理解ある上司がいることも大切ですね。そしてオフィスカルチャーもあるかと思います。休みをとるのが難しい職場があるのも事実です。

(山科)
そういう意味では、組織が自分を守ってくれると思ったら間違いで、自分で何を成し遂げたいのかを考えながら組織を活用しつつ、自分でキャリアのコントロールをすることが大事だと思います。誰も休みくれないですので(笑)。

(斉藤)
私は無休暇をとって本当によかったと思います。それでパートナーも見つかったので、これから国連職員を目指す方にはそういうオプションがあることも知って頂きたいです。(長期契約が取れてからの話ではありますが)国際機関の間での異動もフレキシブルなので、自分でアクティブに探して、動くことも大事です。そして自分の意思を大切にすること。私が一OHCHR(国連人権高等弁務官事務所)のオファーをもらい、喜んでいた矢先、上司に「今はとても出てってもらうわけにはいかない」と言われまして...あとから考えると、あの時どうして「行く!」と言わなかったかと後悔することもあります。色々応募してオファーもあったりなかったりする中、上司や周囲とのネゴシエーションをしながら、ポジション勝ち取っていくものですね。

(山科)
ただ、なかなかポジションを勝ち取るということはうまくいかず、何年か前から考えておかないといけないですね。私も南スーダンに2年半いて、本当は動いてもいいのですが、どうしても「私が動いてしまうと…」という思いがありましたね。日本人はみんな責任感があってこういうケースに陥りがちだと思うのですが、私は、事業のお金を一年分確保すること、私がいなくても事業が回るようチームを作ること、そしてただ休みたいだけではない何か理由をさがすこと、というようなことを考えて、少しずつクリアしていきました。ですから、長い目で考えていかないとなかなか動けないし、長い目で考えてばかりいると、その場で結果を出せないということもあります。途中でやめても、いくらでもキャリアはつながります。キャリアは一個ではないですし、結果は嘘をつかないので、国際機関に戻ってくることもできますし、コンサルタントとして自分で仕事することもできます。自分で自分のキャリアを作っていけるという意味では、国際機関は女性にとってとても働きやすい職場だと思います。

(斉藤)
国際機関で働く日本人は女性のほうが多いですしね。


現在の仕事内容について

(古川)
ここまで、これまでのキャリアについてお話をうかがってきましたが、現在のお仕事についてお聞かせください。

(斉藤)
まずベースとして、ジェンダー平等というのは「人権」ですので、それを守らないといけない、というのは一貫しています。それはUNICEFでもWIPOでもUNHCRでも各国政府であっても民間企業であっても必ず守らなくてはならない人権であるということです。

それをベースにもって、では国際機関がそれに貢献するには何ができるかというと、UNICEFWIPOでは役割が違いますので、そこで違いが出てきます。WIPOの使命のひとつは、より効率的に使える知的財産のシステムを構築することです。知的財産のシステムを考えた時に、それは誰が使うシステムなのか、女性であり、男性であり、途上国の人であり、先進国の人であり、あらゆる人が使えるシステムでなければいけないのではないかということを、WIPOは提言続けていますWIPO内部でもWIPOと一緒に働いている政府代表部の間でも、知的財産の領域においてはジェンダーギャップが大きいという理解が浸透してきました。

(山科)
ジェンダーに基づく暴力を防止するプログラムに関しては、例えばsocial norm (社会規範) を変えるようなプログラム、それからジェンダーに基づく暴力の被害者支援をするシステムをつくる、ということが基本です。現在私がしているのは、UNICEFOffice of Emergency Programme (EMOPS) の中のGlobal Cluster Coordination Unit UNICEFがリードするクラスター(子どもの保護、教育、栄養、水と衛生)がそれぞれの活動分野でジェンダーに基づく暴力のリスクを軽減し、女性や子供が安全に人道援助支援にアクセスできるようなサポートです。例えば女性が避難キャンプなどでトイレに行く際にハラスメントを受けたり、保守的な国では女性が男性からトイレに行くのを見られてはいけないという国もあったりして、そのような女性の意見を取り入れないと女性と子どもがトイレに行けない、行ったらそこでジェンダーに基づく暴力などの危険な目に合うということがあるので、そのような問題を少しでも解決できるような支援をしています。前は、どうして女性、子供の視点を入れないといけないのか、という声があったものの、今は誰もそんな質問はなくなりました。だいぶメンタリティが変わりましたね。”why”から”how do we do that”になりました。

(古川)
現在のお仕事において掲げられている理想と現実のギャップがあれば教えてください。

(山科)
私はギャップだらけです。特に人道援助はお金もないですし、ミドルキャリアの人たちもいなくなる中、やらなくてはならないことは山ほどあるのにできることがほぼないような状況です。できないことが多すぎて、それが葛藤には多々なるのですが、長い目でみて、数年後に何を達成していたくて、それには何が必要なのかいう視点を持ちつつ、一つずつできることをクリアにしています。結局なんでも一歩目からにしかならないので、とにかく一歩進んでいます。ただ、人道援助の一番厳しいことは、前に一歩進んでも、後ろに10歩くらい下がらないといけないことがあったりするんです。大きな戦争が始まったり、政府が予想外の決定を下したりせっかく準備したことがまるっきりひっくり返ることもあります。そういう意味では、人道援助に関わりたい人が意識すべきことは、ほぼ何もできないなかで、なにができるかということを考えて少しずつ前に進むという現実と思います。そしてできたことがあれば喜ぶ。長い目で後ろを振り返ると、ポジティブな成果があることもあります。みんなに合うわけではない分野だと思います。もし違うと思えば、変えてみるというのもありです。とにかく心を強くでも無理だと思ったら違う道を探すことかと思います

今後のプラン〜プライベートと両立させてキャリア構築を続ける〜

(古川)
お二人とも本当に貴重なお話をありがとうございました。最後に、今後プライベートでもキャリアでも達成されたいゴールを教えてください。

(山科)
私は、斉藤さんが達成されたように、家族をもって、キャリアを続けていきたいです。自分のパッションとしては国の政府と一緒に国づくりをしていくことがすごく好きで、UNICEFは緊急人道援助もでき、それを通じて国づくりをすることもできる機関なので、UNICEFの一員として続けていきたいなと。そしてワークライフバランスをみつけて家族を作っていけたらなと思います。

(斉藤)
私も今回、家族を持って初めての転勤になりますので、ここが頑張りどころかなと思っています。子供が8歳で、これからブダペストにい、新しい学校に入って、変化にうまく対応できたらと。夫もついてきてくれるの感謝しています。仕事の面では、今度上司になる人に聞いてみたんです。「私に何を期待してるんですか」と。少し考えたあと、「奇跡を起こしてほしい。一年に一個でいいから!」と言われました(笑)。

でも、奇跡を起こすなんておこがましいことは考えずに、周りをよくみて、少しでもポジティブな貢献できるよう働きかけていけたらと思っています。今度の仕事は方向が変わりまして、職員研修を行う部局で、リーダーシップ・マネージメントを担当する予定です。そこでもまた、ジェンダー平等、Diversity & Inclusionの視点を活かして頑張っていけたらと思っています。

(写真左:山科さん、写真中央:斉藤さん、写真右:古川さん)