国際機関邦人職員インタビュー 女性のキャリア形成座談会
(写真左:山科さん、写真右:斉藤さん)
聞き手:古川友理さん
(国連環境計画(UNEP)
インターン/
Smith College在籍)
これまでの経歴
(古川)
現在に至るまでの職歴を教えてください。
(斉藤)
大学、大学院(公衆衛生学)を卒業してから、JPO
(Junior Professional Officer)派遣制度
で国連難民高等弁務官事務所
(UNHCR) に入りました。ミャンマーで働き、その後は世界食糧計画
(WFP) に移ってアンゴラで働き、それからUNHCRに戻ってグルジアで勤務しました。9.11の後にはパキスタンで緊急援助、そしてザンビアで難民キャンプのキャンプマネジメント、コロンビアで国内避難民の援助をした後、一旦落ち着き、国際人権法を勉強するためロンドンに移動しました。無給休暇を取ったのですが、アンオフィシャルな理由としてはこの辺で人生のパートナーを見つけようかと(笑)。ただしロンドンでは見つからなかったため、次はフランス語を勉強するためパリに移り、現在の夫と出会いました。その後ジュネーブのUNHCRのポストにつくことができ、子供もここで生まれました。幼い子供を抱えて途上国にいくのは不安だったので、ジュネーブで働き続けられるポストはないかと探していたところ、WIPOで新しく創設された「ジェンダーと多様性の担当官(Gender
and Diversity Specialist)」のポストを得ることができました。それからWIPOでは6年働いています。
(山科)
大学、大学院と国際人権法を勉強しながら、日本国内で国内人権機関の設立を目指すNGOで研究者としてインターンをしていました。その間、人権法の研究者より自分はプログラムをする方があっているなと思ったので、大学院を卒業し、法律事務所で勤務後、東京のNGOに勤めてすぐにアフガニスタンに行きました。その後は日本赤十字社でスリランカの津波の復興支援と内戦の復興支援を行い、国際赤十字赤新月社連盟(IFRC)で中国の四川大地震の復興に携わりました。スリランカの時から、緊急支援というのは癌患者にファーストエイドをしているようなものだと思い、開発に移りたいと考え、UNICEFのジンバブエオフィスでJPOとして勤務しました。ジンバブエでは3年半過ごし、その後南スーダンに移り2年4か月勤務した後ユニセフを一旦退職し、フランスでフランス語の勉強を一年ほどした後、コンサルタントをしたりして、現在UNICEFジュネーブ事務所におります。
(古川)
どうして国際機関を選ばれたのですか。
(山科)
小学5年生の頃からアフリカにいく、と書いていました。湾岸戦争の映像をみて何かしなくてはと感じ、どうやったらこういう仕事につくのか探していたら、「国際公務員になるためには」という本を見つけ、そこへの迷いはその時からなかったんです。でもどの機関に行きたいのか、何がしたいのか、という迷いはありました。
(斉藤)
大学生の時にメキシコでのボランティアをしました。簡易トイレを作り歯ブラシを配りながら地元の女性や子供たちと公衆衛生の大切さについて話し合いました。その時の経験がきっかけだったのと、より大きなインパクトを生み出したいという思いから、一つの選択肢として国連を目指すことにしました。 国際協力機構(JICA) にも応募していました。国際援助をしたい、という思いがあって、それができるようになるためには何をしたらいいかを考えたときに国連がありました。
キャリア選択の軸
〜若い頃は与えられたものにベストを尽くし、選択肢が増えてきたら自分の心に正直に〜
(古川)
お二人とも様々なご経験がありますが、何を軸にキャリアを選択されましたか。
(斉藤)
一番大きかったのは自分の気持ちかなと思います。選択肢が沢山あった訳ではないし、挫折もありました。自分のベストを尽くしつつ、選択の余地がある時は自分の気持ちがどっちに沿っていくのかを考えて決める、ということだと思います。
選択ということで最近悩んだのは、このままWIPOに残るか、UNHCRに戻るか、ということでした。この決定は100%自分の意思にかかっていたので、それはもう2年くらい毎日のように考えていました。でも結局、UNHCRに戻ることを決意しました。その時、波立っていた自分の心が、湖の表面がスーッと凪いだように静かな気持ちになりました。決断した時、正しい選択をしたと思えました。それまではずっと長いPros
and Cons (良い面と悪い面の)リストを作ってみたり、いろんなことをしてみたりしたんですが、結局納得できる決断ができました。
(山科)
出産、子育てとキャリアの両立について
(古川)
フィールドからグローバルオフィスに移られたというお話がありますが、フィールドで出産、育児をしていくのは様々な壁があるかと思います。斉藤さんもそういった理由があって、ジュネーブに残られたのでしょうか?
(斉藤)
そうですね。UNHCRの場合、本部のオフィスで5年間勤務したあとは転勤でフィールドのオフィスにいくという決まりになっておりますので、その際少し躊躇がありました。この時たまたまWIPOの仕事で採用してもらえたので、ジュネーブに残りました。
(古川)
出産、育児という観点から、これから国連職員を目指す特に女性に何かメッセージはありますか。
(山科)
私は子供はいないですが、欲しいので、逆にジュネーブからカントリーオフィスに戻ろうと思ってます。UNICEFのカントリーオフィスであれば、家族で行ける勤務地も多いので子供が育てやすいことがあります。ジュネーブでは物価が高くなってしまうのに加え、そういったカントリーオフィスの方がジュネーブでは受けられないサポートがいくつもあることも理由です。そういう意味では、フィールドで子育てができない、ということではなく、色々なチョイスがあります。
(斉藤)
その通りで、場所にもよりますが、フィールドの方が金銭的には安い対価で子育てや家事のサポートを得られることが多いと思います。フルタイムのヘルパーさんに子供の面倒をみてもらうこともできます。これはジュネーブではお金がかかりすぎてとても出来ません。そういう意味では、国連職員として子育てをしていく上で、これが絶対に必要ということはないですが、やはりいいパートナーがいたら助かります。もう一つは理解のある上司がいることも大切ですね。そしてオフィスカルチャーもあるかと思います。休みをとるのが難しい職場があるのも事実です。
(山科)
そういう意味では、組織が自分を守ってくれると思ったら間違いで、自分で何を成し遂げたいのかを考えながら組織を活用しつつ、自分でキャリアのコントロールをすることが大事だと思います。誰も休みをくれないですので(笑)。
(斉藤)
私は無給休暇をとって本当によかったと思います。それでパートナーも見つかったので、これから国連職員を目指す方にはそういうオプションがあることも知って頂きたいです。(長期契約が取れてからの話ではありますが)国際機関の間での異動もフレキシブルなので、自分でアクティブに探して、動くことも大事です。そして自分の意思を大切にすること。私が一度OHCHR(国連人権高等弁務官事務所)のオファーをもらい、喜んでいた矢先、上司に「今はとても出ていってもらうわけにはいかない」と言われまして...あとから考えると、あの時どうして「行く!」と言わなかったかと後悔することもあります。色々応募してオファーもあったりなかったりする中、上司や周囲とのネゴシエーションをしながら、ポジションは勝ち取っていくものですね。
(山科)
ただ、なかなかポジションを勝ち取るということはうまくいかず、何年か前から考えておかないといけないですね。私も南スーダンに2年半いて、本当は動いてもいいのですが、どうしても「私が動いてしまうと…」という思いがありましたね。日本人はみんな責任感があってこういうケースに陥りがちだと思うのですが、私は、事業のお金を一年分確保すること、私がいなくても事業が回るようチームを作ること、そしてただ休みたいだけではない何か理由をさがすこと、というようなことを考えて、少しずつクリアしていきました。ですから、長い目で考えていかないとなかなか動けないし、長い目で考えてばかりいると、その場で結果を出せないということもあります。途中でやめても、いくらでもキャリアはつながります。キャリアは一個ではないですし、結果は嘘をつかないので、国際機関に戻ってくることもできますし、コンサルタントとして自分で仕事することもできます。自分で自分のキャリアを作っていけるという意味では、国際機関は女性にとってとても働きやすい職場だと思います。
(斉藤)
国際機関で働く日本人は女性のほうが多いですしね。
(古川)
ここまで、これまでのキャリアについてお話をうかがってきましたが、現在のお仕事についてもお聞かせください。
(斉藤)
まずベースとして、ジェンダー平等というのは「人権」ですので、それを守らないといけない、というのは一貫しています。それはUNICEFでもWIPOでもUNHCRでも各国政府であっても民間企業であっても必ず守られなくてはならない人権であるということです。
それをベースにもって、では国際機関がそれに貢献するには何ができるかというと、UNICEFとWIPOでは役割が違いますので、そこで違いが出てきます。WIPOの使命のひとつは、より効率的に使える知的財産のシステムを構築することです。知的財産のシステムを考えた時に、それは誰が使うシステムなのか、女性であり、男性であり、途上国の人であり、先進国の人であり、あらゆる人が使えるシステムでなければいけないのではないかということを、WIPOは提言し続けています。WIPO内部でもWIPOと一緒に働いている政府代表部の間でも、知的財産の領域においてはジェンダーギャップが大きいという理解が浸透してきました。
(山科)
ジェンダーに基づく暴力を防止するプログラムに関しては、例えばsocial
norm (社会規範)
を変えるようなプログラム、それからジェンダーに基づく暴力の被害者を支援をするシステムをつくる、ということが基本です。現在私がしているのは、UNICEFのOffice of Emergency
Programme (EMOPS) の中のGlobal
Cluster Coordination Unit でUNICEFがリードするクラスター(子どもの保護、教育、栄養、水と衛生)がそれぞれの活動分野でジェンダーに基づく暴力のリスクを軽減し、女性や子供が安全に人道援助支援にアクセスできるようなサポートです。例えば女性が避難キャンプなどでトイレに行く際にハラスメントを受けたり、保守的な国では女性が男性からトイレに行くのを見られてはいけないという国もあったりして、そのような女性の意見を取り入れないと女性と子どもがトイレに行けない、行ったらそこでジェンダーに基づく暴力などの危険な目に合うということがあるので、そのような問題を少しでも解決できるような支援をしています。以前は、どうして女性、子供の視点を入れないといけないのか、という声があったものの、今は誰もそんな質問はしなくなりました。だいぶメンタリティが変わりましたね。”why”から”how
do we do that”になりました。
(古川)
現在のお仕事において掲げられている理想と現実のギャップがあれば教えてください。
(山科)
私はギャップだらけです。特に人道援助はお金もないですし、ミドルキャリアの人たちもいなくなる中、やらなくてはならないことは山ほどあるのにできることがほぼないような状況です。できないことが多すぎて、それが葛藤には多々なるのですが、長い目でみて、数年後に何を達成していたくて、それには何が必要なのかという視点を持ちつつ、一つずつできることをクリアにしています。結局なんでも一歩目からにしかならないので、とにかく一歩進んでいます。ただ、人道援助の一番厳しいことは、前に一歩進んでも、後ろに10歩くらい下がらないといけないことがあったりするんです。大きな戦争が始まったり、政府が予想外の決定を下したり、せっかく準備したことがまるっきりひっくり返ることもあります。そういう意味では、人道援助に関わりたい人が意識すべきことは、ほぼ何もできないなかで、なにができるかということを考えて少しずつ前に進むという現実だと思います。そしてできたことがあれば喜ぶ。長い目で後ろを振り返ると、ポジティブな成果があることもあります。みんなに合うわけではない分野だと思います。もし違うと思えば、変えてみるというのもありです。とにかく心を強く、でも無理だと思ったら違う道を探すことかと思います。
今後のプラン〜プライベートと両立させてキャリア構築を続ける〜
(古川)
お二人とも本当に貴重なお話をありがとうございました。最後に、今後プライベートでもキャリアでも達成されたいゴールを教えてください。
お二人とも本当に貴重なお話をありがとうございました。最後に、今後プライベートでもキャリアでも達成されたいゴールを教えてください。
(山科)
私は、斉藤さんが達成されたように、家族をもって、キャリアを続けていきたいです。自分のパッションとしては国の政府と一緒に国づくりをしていくことがすごく好きで、UNICEFは緊急人道援助もでき、それを通じて国づくりをすることもできる機関なので、UNICEFの一員として続けていきたいなと。そしてワークライフバランスをみつけて家族を作っていけたらなと思います。
(斉藤)
私も今回、家族を持って初めての転勤になりますので、ここが頑張りどころかなと思っています。子供が8歳で、これからブダペストにいき、新しい学校に入って、変化にうまく対応できたらと。夫もついてきてくれるので感謝しています。仕事の面では、今度上司になる人に聞いてみたんです。「私に何を期待してるんですか」と。少し考えたあと、「奇跡を起こしてほしい。一年に一個でいいから!」と言われました(笑)。
でも、奇跡を起こすなんておこがましいことは考えずに、周りをよくみて、少しでもポジティブな貢献できるよう働きかけていけたらと思っています。今度の仕事は方向が変わりまして、職員研修を行う部局で、リーダーシップ・マネージメントを担当する予定です。そこでもまた、ジェンダー平等、Diversity
& Inclusionの視点を活かして頑張っていけたらと思っています。
(写真左:山科さん、写真中央:斉藤さん、写真右:古川さん)
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