勉強会「放射線被ばくと住民の健康管理」を開催しました
多くの国際機関が集まり、日本からの有識者の出張も多いジュネーブの特徴を生かし、JSAGでは様々なテーマでの勉強会を開催しています。1月28日には長崎大学の高村昇教授をお招きし「放射線被ばくと住民の健康管理」と題して、東京電力福島第一原子力発電所事故の後に住民の皆さんがどのような健康不安を抱えているのか、また長崎大学の取り組みについてお話しいただきました。(プレゼンテーション資料をこちらからダウンロードいただけます。)
福島の事故では、2011年までに6,000例の甲状腺ガンが見つかっているチェルノブイリの事故より、放射性物質の総放出量は6.8倍少なく、うち90%を構成するヨウ素131(ホルモンへ影響する)は11.3倍少ない量が放出されました。放射線の影響から体を守るためには体の表面に放射性物質が付着する「外部被ばく」と、体内に取り込んだ物から被ばくする「内部被ばく」の2つを防ぐ必要があり、事故直後に11万人に対し避難指示が出され、暫定基準値を上回る食品と水の流通を制限する食品管理の措置が取られました。福島の人々の平均外部被ばく量は0.8mSv(放射線量を計る単位:ミリシーベルト。1回のCTスキャンは約5~10mSv)、と、チェルノブイリの平均20~30mSvの外部被ばく量より低かったとの調査結果があります。また、内部被ばくの影響を計る小児甲状腺被ばく線量評価では、ガンのリスクが高まるとされている100mSv以上の被ばくをした子どもは1人も居ませんでした。(チェルノブイリでは50%以上が200mSv以上)
このように少ない放射線量の被ばくだったにも関わらず、40%以上の人が後年の健康障害を心配し、50%以上の人が次世代以降への健康不安を心配しているという、住民の不安は今も大変大きいことが分かっています。これは、そもそも放射線被ばくと健康に関する知識や理解がまったく普及していなかったこと、事故直後の情報が混乱していたことが原因です。例えば発電所の建造物に関する専門家が健康への影響についてコメントをしていたり、ツイッターなどのソーシャルメディア上で間違った情報が拡散したり、人々は何を信じて良いのか分からない状況に置かれてしまいました。また、政府が発表する数字の意味を説明する人が居なかったことが、今になっても人々の中での政府に対する不信感が残る原因となっています。
そんな中、高村教授は事故直後から健康リスクアドバイザーを引き受け福島の方々と共に歩んできた後、長崎大学は2012年1月一番早く帰村を決意した川内村の復興を支援しています。除染、インフラの整備を進めてきた川内村には2015年までに約60%の住民が戻っていますが、若い世代の人々は戻っていません。長崎大学は、一人一人の健康相談に具体的数値を示しながら応じる保健師の派遣や、食品や土壌のモニタリング機器を導入、長引く仮設生活による運動不足を解消する健康増進活動や、教育学部の学生が子どもたちに放射線のことを教える教室を開くなど、全学で横断的な支援を行っています。また長崎大学と福島県立医科大学が共同で「災害・被ばく医療」を学ぶ修士課程を立ち上げ、日本と世界レベルで専門家の育成を目指しています。
東日本大震災から間もなく5年となり、ジュネーブでは福島の現状についての報道は耳にしなくなっていますが、難しいテーマについてとても分かりやすく説明頂いたと大変好評の勉強会でした。高村教授は5年の節目に発表される福島県民健康調査の中間報告の準備に携わられており、単に結果だけでなく因果関係を丁寧に説明する必要がある、放射線の健康への影響については「普段から見えないリスクも含めてどう伝えていくかが大事」だとおっしゃいます。
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