国連機関邦人職員インタビュー 世界保健機関(WHO) 宮城島一明さん
JSAG
今回のインタビューでは世界保健機関・食品安全・人畜共通感染症部長の宮城島一明さんにお話を伺いました。宮城島さんは2007年に国連フォーラムのインタビューにも登場されています。(http://www.unforum.org/unstaff/64.html)
その後から現在に至るまでのお話を中心に、国連機関で幹部レベルのポジションに付くために必要なことなどを交えてお話頂きました。
1. 国際食品規格委員会事務局長から現在のお仕事につくまでの経緯を教えてください。
私の社会人としての出発点は役人ですから、定期的に人事異動があり、『長く同じポストにいない癖』がついていました。国際公務員になってからも、同じところに長くいない方が自分のためにも周りのためにも良いと考えています。
そこで国際食品規格委員会での勤務が5年間に達した頃から次の仕事を探し始め、2009年の秋から国際獣疫事務局 (OIE)で科学技術部部長兼事務局次長として働くことになりました。
国際獣疫事務局(OIE)での仕事で一番印象に残っているのは牛疫の世界撲滅宣言をしたことですね。今まで人類が撲滅した感染症は天然痘と牛疫のみですが、天然痘については撲滅宣言と同時にアメリカとロシアの研究所に残されたウイルス株が生物兵器としてみなされるようになりました。現在でもWHOで残った株の扱いについて議論が行われています。ただ、天然痘の撲滅は冷戦の真っ只中で、世界がアメリカとソ連を中心に二分されていたために保存株が比較的スムーズにこれらの国に集まりました。一方で牛疫の最後のアウトブレイクは、冷戦後の1990年代でしたので、ウイルス株が特定の国に集まることはなく、未だに世界のどの国が保存しているのか完全にはわかっていません。
牛疫の撲滅においては、最後に残った地域はインド・パキスタン国境とアフリカの角でした。これらの地域はともに戦争があってワクチン接種が進まなかった地域でした。ウイルスの撲滅という科学的問題にも、紛争や内戦という人災の影響があり、人間の活動と病気というものが関連していることを感じました。
時代や状況の違いはありましたが、天然痘撲滅から学ぶことも多くあったため、私は牛疫の撲滅宣言の準備にあたり、パリからジュネーブに足を運び、天然痘の専門家に会ってその経験を参考にしました。このように動物の病気と人間の病気というのはお互いに学べるものも多いので、もっと動物衛生と公衆衛生が相互に交わっていくと良いと思います。
また、世界貿易機関(WTO)の訴訟に関わったのも面白い経験の一つでした。WTOは自由貿易を推進するための機関ですが、科学的なルールに基づいた感染症の拡大防止(防疫措置)のためであれば貿易を制限する事は認められています。しかし、国によっては自国の生産者を保護するために、防疫措置の名を借りて科学的根拠に基づかない輸入制限を設けようとする場合があります。そういうときWTOの紛争裁定バネルが、輸入国が設けている貿易障壁が国際基準に照らして妥当なものか審査するわけです。私がOIEにいた時にある二国間で訴訟が起きたのですが、輸入国側は輸出国側の防疫措置が十分でないことを理由に輸入を制限しようとしました。OIEの国際基準に基づくと科学的に危険性はないと考えられましたが、輸入国はOIEのリスク評価に瑕疵があると主張して譲りませんでした。OIEは情報を開示して、その国際的ルールとリスク評価は正しいということをきちんと主張しました。
訴訟の結果がでて、判例となればとても嬉しかったのですが、判決が出る直前で訴訟が取り下げられてしまい、結果として何も残らなくなってしまいました。行政という分野では、すごく努力しても最終的な結果が認定されず、膨大な時間をかけてやったものが形に残らないことがあるのです。それはそれであきらめますね(笑)。
国際獣疫事務局で2013年の春まで3年半働いたあと、現在のWHOでのポストが空き、食品安全・人畜共通感染症部の部長になることになりました。
2. 現在のお仕事について教えてください。
食品安全というのは面白い分野で、人間誰でも生きて行くために何かを食べますが、100%の安全性にこだわったら、何も食べられなくなってしまう。ゼロリスクの神話です。その折り合いをつけていくのがリスク評価、リスク管理です。
低所得の国であればこそ食品安全は重要なのですが、むしろ食糧の質よりも量が重要視され、食品安全は軽視されがちです。ですから国民所得が向上し低所得国から中所得国に移るあたりで初めて問題として認識されてくることが多い分野です。
WHOの多くの事業は、ほとんどが発展途上国相手ですが、食品安全は発展段階に関わらず、全ての国で大切な分野です。しかし、各国内での担当省庁が細分化されている事による縦割りの弊害を受けやすく、そもそも保健省に権限がない国も多いことから、WHOの執行理事会や総会でもめったに議論されることがありません。WHOの現事務局長が食品安全に対して理解が深く、2015年に世界保健デーのテーマが食品安全になったりして状況はよくなってきましたが、依然として注目度は高くはありません。
この分野の特徴としては、汚染食品を食べて下痢をしても病院に行く人は一部、その中で食品が原因としてと特定されて報告されるのはほんの一部という圧倒的な報告率の低さが挙げられます。また、化学物質による食品の汚染が慢性的疾患の原因となる場合がありますが、病気として現れるまでに十数年以上かかってくるので因果関係の立証が困難です。そして医師だけではなく様々な職種の人々が関わる分野であることも食品衛生の分野の特徴としてあげられるでしょう。食品安全はともすれば忘れられがちな問題ですから、旗を振って問題の可視化をするということが難しくもあり、またやりがいでもあります。
3. 国連機関で幹部レベルのポジションにつくために求められることは何だと思われますか。
まずは、自分が何をしたいのか見極めること、管理職につきたいのか敬遠するのかきちんと考えることが大切です。管理職の仕事は、計画書報告書の作成や人事、資金集めが中心となります。テクニカルな仕事が楽しい人は管理職を目指さない方が良いでしょう。P4、P5で定年を迎えるのが悪い人生とは決して思いませんし、全員が管理職を目指す必要はないと思います。実際、周りから尊敬されるかどうかは等級とは関係ないし、一方そういう人が管理職になっても組織のためになるとは限りません。
管理職に向いている人というのは、多国間の政治的ゲームを楽しいと思う、とまではいかないにしてもそれに興味を持てる人だと思います。国際機関の仕事は、大きく分けて二つあり、一つは国際基準づくりの仕事、つまりこれは全ての加盟国と広く平等に接してつきあう仕事、もう一つは途上国に対する援助の仕事、つまり少数の国と深く付き合う仕事です。自分がこの2つのうちどちらに向いているのかを考えなければなりません。私自身は発展途上国の特定の国と深く付き合うことには向いていませんが、たくさんの国と薄く広く付き合うのには適性があると思っています。国際ニュースは欠かさず見ますし、一般的な経済雑誌なども普段から読むようにしていました。国際政治の展望と自分の仕事が結びつくのが楽しい人でないと管理職は難しい仕事だと思います。
また、英語を書く力も大切だと思います。プロジェクトベースの仕事をする人にとっては、目に見える結果、仕事の最終成果は一本の報告書ではなくその国の人の暮らしぶりがよくなるということですが、多国間交渉がベースの人にとっては議事録が全てであるわけです。美しい議事録を書く人が稀にいて、それは本当にすごい能力です。5時間10時間の侃々諤々の議論を、過不足無くたったの5行にまとめてしまう、そして全ての加盟国がこれに納得してその次の段階に進むことができる、これは本当に事務局冥利につきることです。
サマライズする力とは、ああでもないこうでもないという数時間の議論を結晶化させる言葉を見つける力だと言えないでしょうか。見つけた言葉というのは、実は誰も議論の最中には実際には発していないかもしれないのです。それでもためらわないで議事録に使えることが重要ですよね。そしてまた発言者すら気付いていない良いアイデアに形を与える力、議論に出口を見つけ、次の会議につなげるプロセスを作り出し提案する力も国際公務員にとって非常に重要です。これらの付加価値を創出する仕事は事務局がやらないと誰もやらないですから、言語化する力というのは国際公務員にとってすごく大切だと思います。
4. 国際機関を目指す、もしくは現在働いている若者に対してアドバイスを頂けますか。
まず、好んで色んな経験をするべきだと思います。1つのポスト、職場にしがみつくよりもフレキシブルに人生設計を立て、様々なことを経験すると良いでしょう。というのも、部下や同僚、上司として付き合いやすいと思う人は、しばしば色々な経験をしてきて、みんなが違うことを考えているということを前提としている人たちです。そういう人は間口が広いです。同じところに若い頃からずっといるような人にはあまり魅力を感じません。また、基本的に国連機関の事務局の仕事は加盟国とのお付き合いですから、加盟国の内情や仕組みがどうなっているのか理解していることは重要です。つまりある国の政府で働いた経験があり、加盟国側の痛いところ痒いところがわかっていると、仕事上有益だと思います。
また、若いときには自分の上司を選ぶのは難しいかもしれませんが、ある段階からは自分の上司も選ぶべきだと思います。自分を磨くのは上司との関係が大きいですから、尊敬できない上司のもとに長くいても仕方がありません。自分が成長できる上司を選ぶのは仕事の内容と同じくらい大事だと思います。
少し話が変わりますが、応募の際のカバーレターについて言うと、分量、そして最初の1パラグラフで読み手を引き込む力が大切です。筆記試験では時間も内容も制限されていますから、カバーレターは自由に自分をアピールできる貴重な場です。毎週応募して使いまわしているものかどうかは採用側にはひと目でわかります。post descriptionに応じてきちんと書きわけることが重要ですね。
5. 日本人であることは先生のお仕事に影響を与えていらっしゃいますか。
仕事上あまり意識することはありませんね。ただ強いて言えば、情報の共有には気をつけるようにしています。日本では皆が大部屋で仕事をしていることが多いので、自然に情報共有がなされていて、隣の人が何をしているかだいたい知っているものです。一方、国際機関では個室で仕事をしていますから、情報の共有が難しい。その壁をどう壊していくか。日本的かどうかはわかりませんが、情報共有を通じたチーム作りを心がけています。
自分の下手な英語へのコンプレックスとどう向き合うかという点で言えば、永久にネイティブのようには喋れるようにならないのだとある時気付いて以降、変な気負いがなくなりました。ただし、自分の書いたものへの批判的な目は常に持つようにしています。ネイティブの人だったら自分の文章を二度も三度も見返すことはないでしょうが、常に見返すことで、間違いを減らし、読みやすい文章にするようにしています。また、シェイクスピアのように十年に一度見るか見ないかという特別な英語を使うのではなく、International Englishを実践するように心がけ、枝葉末節にこだわるのではなく、メッセージが伝わることに主眼を置くように意識しています。
インタビュー日時:2017年3月1日
聞き手:山本桃子 (WHOインターン/東京大学医学部医学科)
聞き手:山本桃子 (WHOインターン/東京大学医学部医学科)
23:16
インタビュー
国際機関邦人職員インタビュー 世界保健機関(WHO) 小川祐司さん
JSAG
今回の国連職員インタビューでは、世界保健機関(WHO)Dental
Officerの小川祐司さんにお話を伺いました。
「口の健康なくして全身の健康は成り立たない」―口腔保健の重要性
①現在されている仕事を教えてください。
世界的に口の健康の重要性は残念ながらまだ十分に認知されていません。WHOでは口の健康の重要性を広めるために、口と全身の健康の関連性、つまり口腔疾患はNCDs(非感染性疾患)の一つである事を提唱しています。特に口の健康と全身の健康の両方に影響を及ぼす、Common Risk Factorコントロールの必要性を提唱し、生活習慣の改善を促しています。
喫煙が全身に悪影響を与えることはみなさんご存知だと思いますが、歯周病や口腔癌など口腔への影響を与える事も指摘されています。つまり喫煙対策は歯科の分野からも取り組む事が必要とされているという事です。現在WHOでは歯科治療の一環として禁煙指導をどのように取り入れていくべきかのプロトコールを作っています。
砂糖の摂取は糖尿病や肥満に影響する事はもちろん、歯科ではむし歯に関与しています。従って歯科医師という立場で砂糖の摂取量のコントロールすることは、口の健康を通じて全身の健康にも貢献できると考えています。
以上のようなCommon Risk Factorの考え方をどれだけ定着させ歯科の重要性を普及する事が出来るかが課題だと思います。
口腔保健は直接的に命に関わる分野ではないため、どうしても他の分野と比べて優先順位が低くなってしまいます。しかし生活習慣病の蔓延でQOL(Quality of Life)が下がるというエビデンスが出てきている中で、QOLを下げないようにするためには「食べる」事が大切だと考えられています。また、口腔保健対策は費用対効果が高いというエビデンスも多くあります。今後、口腔保健の重要性の認知がより深まる事を願います。
海外大学院への進学、新潟大学での博士課程を経てWHOへ
②シドニー大学の大学院に進学されていますが、その動機、その頃に描いていた自分の将来像を教えてください。
もともと父親が歯科医師であったため、自分も歯科医師になるようにと言われていました。しかし、目の前の患者さんを治療するというよりも、より多くの人の口腔の健康に興味がありました。大学時代の恩師がこの考えに賛同してくれて、海外で勉強する事を薦めてくれオーストラリアで修士号をとる事になりました。オーストラリアへの留学をした理由は生活のしやすさもありますが、むし歯予防のための公衆衛生対策、例えばフッ素の水道水への添加(Fluoridation)が非常に進んでいた事も大きな理由の一つです。修士課程では口腔保健と国際保健の基礎を勉強する事が出来たと思います。また外国の大学で勉強するという初めての経験の中で、多様な人種、バックグラウンドの人々と一緒に勉強し、それぞれの国の背景や文化など教科書だけでは学べないような 様々なものを学ぶ事ができました。その経験は現在WHOで働くにも少なからず役に立っており、そういう意味からも留学経験は非常に有意義だったと思います。
③留学後にWHOで働く事になった経緯を教えてください。
修士課程を終えた後に、新潟大学で博士課程に進学しました。 国際学会に参加した際に偶然私の前任のWHOのDental Officerに会いました。新潟大学の教授がWHOの仕事を長年されていた経緯もあり、そこでWHOに来て仕事をしないか、という話が持ち上がり2003年から2年間Short Term Professionalとして仕事を行いました。2007年には新潟大学が日本で唯一の歯科分野におけるWHOの Collaborating Centerとなりました。その後前任のDental Officerが退任された後に私が赴任したのが2014年の事です。
現在振り返ってみると、新潟大学の博士課程への進学を決めた事が現在WHOでの仕事をする事に繋がり、国際口腔保健に携わることになったターニングポイントだったと思います。
口腔保健分野における日本からの国際貢献のための仕組みを作りたい
③帰国後はどのような仕事をされますか?
帰国後はもともとの新潟大学に戻りますが、日本の口腔保健分野が国際的に貢献できるような仕組みを作る事が自分の仕事だと思っています。特にそのための人材育成が重要だと考えています。また、口の健康が全身の健康にとって重要だというエビデンスをより強固なものにしていく必要があります。特に今までのエビデンスはそのほとんどが先進国からのものでしたが、今後は発展途上国からのエビデンス、経験の共有も求められています。 NCDsはもはや先進国だけの問題ではなく、発展途上国でも大きな問題となってきています。つまり先進国-発展途上国に関わらずNCDsの対策に取り組んで行くことが必要となります。発展途上国においても口の健康とNCDsの関連性についてのエビデンスを示し、それに基づいた対策が必要になってきていると思います。
また、口腔疾患の有病率などのデータを集める事も重要だと考えています。世界的には口腔疾患の状況については情報が限られています。これは残念ながら口腔保健が軽視されていたためでもあると思います。小児のむし歯についてはまだ問題として認識されている方ですが、成人の歯周病や高齢者の歯の喪失の程度などといった状況についてのデータがほとんどありません。これらの疾患の状況をモニターするDisease Surveillanceの確立が今後の課題だと思います。各国が口腔保健の政策を立案する際にもデータがない状況ではエビデンスに基づいた適切な政策が作られません。現在ミャンマーにおいてWHOが策定した標準的な口腔疾患の調査方法について現地の人々にトレーニングを行い、それを踏まえて2017年1月から歯科疾患実態調査が行われています。 トレーニングから調査、解析、データのまとめとそれに基づく政策の立案までをモデルパッケージとして考えており、他の国でも同様に実行できるようになれば、データの不足という問題点の解決に繋がっていくのではと考えています。
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| ミャンマーでの技術指導にて |
⑥このような国際保健の分野を目指す学生からのよくある質問として、どれくらいの臨床経験が必要なのかという事がありますが、ご自身の考えはありますか?
私が臨床をしなくても、代わりに臨床をしてくれる人がたくさんいるので、臨床をしていない事へのコンプレックスは特別ありません。しかし、ある程度臨床をしてから公衆衛生のフィールドに入る事は大切であり、最低限の経験は必要だと思います。
⑤国際保健を目指す歯科学生へのメッセージをお願いします。
このグローバル社会の中で海外に目を向けて働くことが当たり前になりつつありますが、歯科の分野で国際的に働く人は少ないと思います。特に日本人となると本当に少ないです。だからこそ可能性は大いにあるでしょう。その道を見出すためには英語力はもちろん、運やタイミングも重要だと思います。
一方で、学生に対して「頑張れ、頑張れ」というのみでなく、学生が自信をもって海外に出ていけるような仕組み、体制をつくることが必要だと思います。例えば、日本の歯科大学で「国際歯科保健」を専門で行う教室を作る事も必要な事だと考えます。
聞き手:原田有理子 (WHOインターン/九州大学歯学部)
2016年3月11日
22:12
インタビュー
国際機関邦人職員インタビュー:国際連合児童基金(UNICEF) 兼高佐和子さん
JSAG
今回のインタビューではJPOとして UNHCRに勤務後、2017年よりUNICEFジュネーブ事務所のCorporate Fundraising and
Partnership部門に赴任されている兼高佐和子さんにお話を伺いました。
JPOに至る経緯を教えてください。
大学時代にアジア・アフリカでの識字教育や、教育制度作りについて勉強していました。指導教官もユネスコの本部・フィールドオフィスで数十年の勤務経験があったことなどから、フィールドトリップで途上国の教育現場などをみる機会がありました。国連で働きたいという考えを当時持っていたわけではなく、大学卒業後は民間企業で世の中の仕組みを理解して、専門性を身につける仕事につきたいと考えていました。ただ、民間企業の仕事の中でも、ビジネスを通して、国際的な問題に取り組める企業に入りたいと思っていました。卒業後、民間企業に就職し、多国籍な環境で、広報やマーケティングの仕事する機会に恵まれました。その後、ロンドンでの大学院生活を経て、駐日英国大使館でロンドンオリンピックの日本での渉外・マーケティングを担当し、民間企業から資金などの協力をしていただき、英国の魅力を伝えるプロジェクトを行う仕事をしていました。こういった仕事を続けている中でも、自分のコアバリューとして、渉外やマーケティングという自分の専門性を活かして、過酷な環境にいる人たちの教育ひいては人道支援に従事する仕事に関わってみたいという思いがずっと心の底にあり、いつか国連で働いてみたいという思いが徐々に強くなってきました。また、二国間関係を軸に仕事をしていた中で、よりマルチなアプローチのできる国連機関での仕事に興味を持ち始めました。そんなときに、WFPの東京事務所で渉外のコンサルタントを募集していて、チャレンジしてみたところ、同僚もとても魅力的な人が多くて、仕事がとても面白く、このまま国連で働いていきたいと思い、JPOを受けました。
UNHCRではどんな仕事をされてたんですか。
コペンハーゲンにある民間企業との連携を推進する部署で、民間企業、基金、資産家などにUNHCRの活動に共感してもらい、資金を出していただいたり、サポートをしていただくための渉外の仕事をしていました。
海外への出張も多かったそうですね。
主に任された仕事は大きく分けて2つあって、一つ目がUNHCRのドナーにすでになっている企業・基金への渉外担当として、さらにUNHCRのファンになってもらい活動をサポートしてもらう仕事。もう一つは、UNHCRは先進国に民間連携を推進するナショナルコミッティや資金調達部門の事務所があるのですが、こういった先進国の事務所で、実際にファンドレイジングをするための戦略アドパイスや、プロポーザルの作成、調整業務をしておりました。そのうちの一つ目の仕事内容に関連して、私はアメリカの大きな基金の渉外を担当していたのですが、フィールドを中心に出張の機会が多くありました。ドナーが興味を持っている分野のプロジェクトを見てもらって資金拠出を検討してもらう事や、ドナーが資金援助した現場を実際に見てもらい、効果を実感してもらったりしていました。そういった機会にUNHCRのフィールドでの強みと、自分も関わった仕事が実際に役に立っているのを目にすると、苦労も吹き飛びました。ヨルダンのシリア難民に向けた女子教育の現場を視察に行った際に、10-12歳の女の子たちが将来の夢で「英語の先生になりたい」「お医者さんになりたい」と言っているのを聞いた時には、心からこの仕事をしていて良かったと思いました。
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ヨルダンのザータリ難民キャンプにて。UNHCRが行っている女子児童向けの教育プログラムに参加して将来の夢を語ってくれた子どもたち。(撮影は兼高氏本人)
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難しい交渉などもありましたか。
現場が求めていることと、ドナーが求めていることにギャップがあることがあり、それを埋めるにはどうしたらいいかは悩みましたね。ドナーがやりたい事、やって欲しい事と、現場でプロジェクトを動かす側にとってのプライオリティーが違う場合がたくさんありました。
どうやって対応したんでしょうか。
そのギャップを埋めるためには、いかにフィールドオフィスのシニアなスタッフにドナーに対して話をしてもらうように説得するか、短くてもインパクトのあるストーリーをできるだけ伝えるにはどうすればいいかを、いつも考えていました。でも、今でもこれという答えは出ておらず、探し続けているところです。
他にどのような悩みがありましたか。
あとはレポーティングの問題ですね。企業が求めている具体的な数字が入ったレポートと、フィールドが出せるレポートに乖離がある事が往々にしてあります。例えば、企業はこのお金で何人の命が救われたという数字を求めますが、一つのプロジェクトに複数のドナーがお金を出している事が多いので、特定のドナーが出したお金がどこの地域の何人に実際に使われたかを数字にするのは、とても難しいのです。その分、できるだけ具体的な活動の様子をビデオでとったり、実際の受益者の声をもとしたにストーリーを作ったりしました。あとは、例えば日本のドナーに対しては現場で働いている邦人職員からのメッセージを伝えたりしました。そうやって、数字で出せない部分を、エモーショナルな面でカバーする努力を心がけていました。
二つ目の役割として、ファンドレイジングに関する戦略のアドバイスというのはどういった事をされたんですか 。
国連機関全体としてファンドレイジングや、マーケティングなどの分野には欧米人が多いと思うのですが、UNHCRでもコペンハーゲンにある民間連携の本部事務所にはアジア出身の職員は私一人しかいませんでした。それもあって、アジアのフォーカルポイントの役割を任されていました。実際には、ファンドレイジング戦略のサポートや、UNHCRに興味をもっている企業に対して、フィールドと連携してプロポーザルの作成などを担当しました。
UNHCRでの経験は現在のUNICEFでのポストを獲得するのにも役立ちましたか。
とても役立ちました。UNHCRでの経験が無ければ、今のUNICEFでのポストを公募で獲得することは難しかったと思います。今の仕事では、世界中のユニセフ協会の企業との連携のファンドレイジングをサポートする仕事に携わっていて、私は主にアジアとヨーロッパを担当しています。もちろんUNHCRとUNICEFでやり方は違う面もありますが、企業へのアプローチの仕方や、国連という大きな組織の中で、世界中に散らばる人たちとチームワークを組んで結果を出す働き方など、今までの経験は生きていますね。
JPO期間中に成果を出すために心がけたことなどありますか。
とにかく仲間を多くつくることですね。私の仕事は、自分の部署内だけではなく、フィールド事務所、プログラムやコミュニケーションなど他の部署の職員ともやり取りが多い仕事でした。なので、その人たちにとって、自分が付加価値を与える事ができる人だと思ってもらえるように、一緒に取り組んでいる仕事の意義を日々話すように心がけていました。あとはチームワークの成果を強調するように心がけていました。例えば、ミーティング中に、自分の成果を全面的にアピールするというよりは「同僚の彼女や他チームの誰々がいたからこそ、この成果を出すことができた」というチームとしての成果を強調する話し方をしていました。結果的に、同僚のみんなからも一緒に働きやすいと思ってもらえて、上司や同僚から良い評価をもらえる事に繋がったと思います。
今後のキャリアプランを教えてください。
まだユニセフに着任して数週間ですが、ユニセフは民間連携の分野ではNo1の国連組織であることもあり、知識のシェアや、ブランド価値を高めるためのガイドラインが非常にしっかりしていると思います。同僚も専門性の高い人が多いです。大学時代に途上国での教育支援などを勉強してきて、渉外やマーケティングの専門性を活かして、今UNICEFでの仕事に就いたことで、自分の原点にあったものに10年位かけて戻ってきたような感じがしています。なので、今しばらくは国連機関でのこの分野のエキスパートになりたいと思っています。それと、この分野はアジア人がほとんどいない分野なので、この分野で自分も知識をつけて、いずれはアジアに戻って、学んだ事を還元できればと思います。
民間企業での経験は国連機関でどのように活かせると思いますか?
人道支援、開発など国際協力のいわゆる王道の分野だけではなく、日本人は国連の人事、財務、サプライチェーンなどの分野でも強みを発揮できるのではないかと思います。これらの分野で、グローバルな環境で働いている経験のある日本人は多いと思いますし、私もこういった分野で活躍されている日本人の優秀な国連職員の方々に助けられてきました。民間企業でこういう分野に経験がある人が、もっともっと国連に挑戦してくれれば、日本人の国連職員も増えていくのではないでしょうか。私自身も、今のところはまだ民間の経験の方が長いですが、民間で培った経験が無ければ、今の環境での仕事を楽しく充実してすることができなかったと思っています。
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UNHCRの支援のもと、ナイジェリアからの難民とカメルーンの小学生たちが通うナイジェリアの小学校にて。難民も地元の子も皆一緒に教育を受け、元気に遊んでいる姿がとても印象的でした。(撮影は兼高氏本人)
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12:41
JSAG講演会「身近になる宇宙と課題解決への適用」(JAXA・落合治氏)が開催されました
JSAG
2017年5月19日(金)、地球観測政府間作業部会(Group on Earth Observations: GEO)事務局において全球地球観測システム(Global Earth Observation System of Systems: GEOSS)の構築を行うため、地球観測システムとデータ情報システムの専門家として宇宙航空研究開発機構(JAXA)からご出向中の、落合治(おちあい・おさむ)氏によるJSAG講演会「身近になる宇宙と課題解決への適用」が開催されました。
地球を観測する人工衛星からのデータが有効な手段として社会に浸透しつつあり、多くの国連機関においても利用が拡大しています。災害の被害地域の把握、気候変動のモニタリング(氷河の消失、二酸化炭素濃度、海面水温など)、環境監視(土壌水分による干ばつ地域の把握、森林違法伐採監視など)等の分野での、政策的意思決定の根拠を提供するための衛星データの活用事例を、たくさんの動画や写真とともにご紹介いただきました。さらに、衛星データとその他のデータを組み合わせることによる応用(感染症対策など) と、SDGsに対する貢献、国際協力による地球観測データが果たす広範囲に渡る可能性についてもお話しいただきました。
さまざまな国際機関、日本政府代表部、大学院などから20名の方にご参加いただき、普段聴く機会のない貴重なお話を聴けてとても刺激的で勉強になったと、たいへん好評でした。
15:23
講演会・勉強会
国際機関邦人職員インタビュー:世界貿易機関 矢野博巳さん
JSAG
今回は世界貿易機関(WTO)のルール部(Rules Division)参事官の矢野博巳さんにお話を伺いました。関税をめぐる「貿易救済措置」を中心に、法律という専門を生かし、WTOにおける、「立法・行政・司法」に該当するような三方面に力を尽くしておられます。国際機関の中でもビジネス色が強いことが特徴的なWTO。欧米流のワークスタイルの魅力も交えて語っていただきました。
-現在の職務内容を教えてください。
-主にアンチダンピング、補助金相殺関税、セーフガードなどに関する仕事(※以下、「貿易救済措置」)をメインに取り扱っています。WTOの原則として、関税について加盟国内で協定を取り決め、これ以上関税を上げないというもの(関税譲許)がありますが、例外的な場合には国内産業を保護するために一時的に関税を上げてもよいとするこれらの措置は貿易救済措置と言われています。主要先進国も含めて多用されており、実はかなり強力なツールです。
☆各国の「三権分立」にたとえたWTOの機能
各国の「立法・行政・司法」にたとえると、以下のように説明できる。
立法:現在のドーハラウンド(DDA)など、今ある協定の修正や新しい協定の策定に 関する交渉
行政:既存の協定の遵守状況について、各国が議論する
司法:貿易裁判所として、協定違反などに対する裁判を執り行う
○事務局は、どの国の利害とも中立的な立場から上記の機能を支援。
ルール部(Rules Division)は、少し珍しいのですが、3つの機能全てに関わっています。
立法面ではルール交渉、行政面からは貿易救済措置の履行状況に関する加盟国の議論をそれぞれ事務局・裏方としてサポートします。司法面に関しては貿易救済措置に関する裁判を行う際のパネリスト(裁判官)のバックアップを行います。現在ドーハラウンドは停滞していますが、私は行政面での「貿易救済措置」に関する議論のサポートに加え、司法面ではパネリストの補佐役をしています。たとえは大げさですが、後者は、日本で言う最高裁判所調査官に似た仕事です。
現在のお仕事の魅力について教えてください。
一言では難しいですが、WTOは他の人道系国連機関及びニューヨークの国連本部などとは異なり、ビジネス的色彩が強いので、相対的にPolitics (政治的事情)からかなり距離をとれることです。基本はビジネス的な視点ですので、例えば政治的な事情で反目しあっている国同士でも、まさにビジネスライクに議論できます。これは私の部の担当ではないですが、分かりやすい例を挙げれば、電子商取引に関する国際ルールのありかたについて各国が議論するときに、各国は自国の消費者のニーズや業者のあり方などのビジネス的な視点に沿って議論しますので、政治的な視点が直接出てくることは滅多にありません。これに対し人道関係の諸機関が扱う国際紛争や難民といった問題は、国際関係や各国の国内政治とも複雑にリンクするので、事務局の方々も大変ご苦労があると思っています。
専門性の必要性と面白さ
-WTOにお勤めになろうと考えたきっかけは何ですか。
-もともと通商の仕事に興味があり、1983年に経済産業省(当時の通商産業省)に入省しました。1998年に外務省に出向して在ジュネーヴ日本政府代表部に派遣され、そこで4年間日本政府の役人としてWTOに携わる機会を得ました。その4年間のうちにWTOに対する関心が高まり、現在の仕事に応募し採用されました。
最大の決め手は、ビジネス色の濃い、テクニカルな話題が多い点でした。先ほどの電子商取引の例にしても、各国の消費者のニーズ・取引されているもの・現在の取引形態などといった点についてよく勉強する必要があります。私の部でも、貿易救済措置についての知識がないと全く仕事になりません。その分野のエキスパートであることが求められます。
以前のインタビュー (https://jsag-geneva.blogspot.ch/2015/10/blog-post_13.html) にて在ジュネーヴ日本政府代表部の嘉治美佐子大使が仰っていた「国際機関で仕事をするには専門性が必須」というのは全くそうで、そういう意味で専門性を活かす仕事はなかなか面白い世界だと感じています。
日本政府はジェネラリストが多いので、私もそのように動いていました。ただ私のカウンターパートであったアメリカやEUの外交官などと話をすると、専門家なので彼らはやはり専門的な知識をよく知っているんです。ジェネラリストはジェネラリストで面白いこともあるのですが、こうしたエキスパートと互角に議論することはどうしても難しいのです。その点寂しいと感じましたし、エキスパートとしての仕事は面白いのではないかと思ったことが、応募する直接の動機になりました。
-海外や国際機関全般で専門性を重視する傾向はやはり強いのでしょうか。
-国際機関によって求められる専門性の分野や幅や深さは変わってくると思いますが、基本的には専門性を重視する傾向は強いと思います。私の専門ではありませんが、例えば人道関係の仕事一つでも、ただただ現場で何となくお手伝いします、というのではもちろんダメで、ロイヤーも医者も要るし、バックグラウンドで国際関係を担当する人も必要になって来るものと思います。
ほとんどの国際機関は良くも悪くも欧米風のスタイルなので、自分の専門性がないとなかなか生き残ることはできません。実際、初めて会った同僚同士なら、一通りの挨拶を済ませた後に真っ先に「君の専門分野は何?」といった質問が出てきます。「ロイヤーです」「エコノミストです」「医者です」などの答えがないと、こちらではちょっと変なんです。
一方日本は、役所も民間企業もジェネラリストが多い傾向にあります。専門性とは違うシステムで日本の企業や役所は成り立っているからです。ジョブローテーションなどを通じ、幅広くいろいろなことを見られることが日本のシステムの良いところといえます。
-実際にWTOで働く中で、苦労した経験にはどのようなものがありますか。
-言い出すときりがないですよ(笑)。WTOに限らない話だと思うのですが、一つだけ挙げると英語です。単語や文法は当然ですが、そういうシンプルな問題以上に、例えば議論中の「クロストーク」に慣れることが大変です。広く言うとプレゼンテーション能力において苦労することが多いでしょうか。
☆クロストーク(cross talk)
相手が話している最中に被せて自分の意見を言う議論スタイル。欧米流の非公式な議論においてはほぼ必須となる。話し終わるのを待っていては、会話に入れないことが多い。また議論・段階ごとに意見がまとまっている必要はなく、途中で話題が厳密にもとに戻らなくても問題はない。みな、自分の意見をしっかり言うということを重視する。
外交官同士のフォーマルな議論ならお互い相手の話を待ってくれることもありますが、同僚同士・仲間内だと特に遠慮がないわけです。日本人はあまりクロストークの訓練を受けていないので、遠慮していると相手に入られてしまいます。さあ話そうと思った時にはもうその話題が終わってしまっていたりもしますね。相手の話をじっくり聞いて、一つ一つのテーマについて結論を出しながら進める傾向の強い日本人にとしてはなかなか落ち着かなく思えます。
各国による合意形成の難しさとその背景とは
-ドーハラウンドが難航している理由は何だと思いますか?
-色々な要因がありますが、よく言われるのは発展途上国と先進国の立場の違いです。
先進国、特にアメリカは貿易の世界で長らく力を持ってきたため、自国企業にとって有利なルール作りを行おうとする傾向にあります。一方発展途上国は概してdefensiveな立場で、規制・ルールを増やすことには消極的です。WTOの交渉ではコンセンサスが必要なので、21世紀型の新しいルールを作ろうとする先進国側と、途上国に優しい、あるいは有利なルールを求める途上国側とでは、なかなか合意に至ることが難しいのが現状です。
各国の立場の相違は、ある意味では哲学の相違とも言えるので、どちらが正解ということではありません。また、WTO事務局は加盟国主導のスタンスをとっていますので、交渉の場のセッティングや統計資料の作成などはしますが、独自の方向性を自ら打ち出して交渉を促す、といったことは行いません。加盟国間で議論に議論を重ね、それでもどうしても合意に至らない事項について、加盟国側から事務局長に妥協案の提示を求められることは稀にはあるものの、事務方はあくまで中立的な裏方としてのサポートに徹します。今後の方向性も、99.9%加盟国次第と言っても過言ではないでしょう。
-新規な議論テーマは主に先進国側・途上国側のどちらから提起されることが多いですか。
-かつてはアメリカ・EC(当時)などある程度力のある国が主導し途上国側がそれになんとなく追従するパターンが多かったのですが、最近は中国、インド、ブラジルをはじめ途上国から提起されることも増えてきています。
GATTが発展解消されWTOができた1995年のウルグアイラウンド頃までは、アメリカとEC(当時)の影響力が強かったため、途上国側も例えば「これだけもめている米ECが納得したならそれでいいか」とある程度流れで追認してくれることもありました(いわゆるブレアハウス合意など)。しかし経済発展に伴い、途上国もだんだん力を持ち始めてきました。さらに交渉における振る舞い方を理解してきているからか、アメリカとEUの間でようやく合意に至った案でも、あっさり覆すこともあります。途上国が意見を積極的に言うようになったことはもちろん良いことですが、その結果加盟国間の合意形成はより難しくなってきているのも事実です。
自分のやりたい仕事を世界中で探す
最後に日本の学生に対してメッセージをお願いします。
-ご質問にお答えする前に「日本で仕事をする」と「海外で仕事をする」の二つの選択肢から選べるとしたら、あなたはどちらを選びますか?
かつてエジプト人とトルコ人の親しい同僚に、「自国の優秀な学生の中でいい仕事があれば海外で働いてもいいと考える学生はどれくらいいるか」という質問をしたことがあります。エジプト人の同僚曰く「200%」。少々ジョークがきつい回答ですが、優秀な学生とはエジプトの外でも仕事を見つけられるように勉強を重ねてきた学生のことを言うそうです。トルコ人の同僚は「99.5%」。宗教上等の理由でトルコを離れたくないという学生は若干居るかもしれないという以外はエジプト人の同僚と答えが同じでした。彼らの国の優秀な学生には「自国でなければダメ」という考え方はないのです。ヨーロッパでは別の文脈ですが結果は同じですね。例えばスイスの大学(例えばジュネーヴ大学)を出たからといってスイスで職探しをする必然性はありませんよね。
これは面白い話で、日本の大学、特に法学部で同じ質問をすると、おそらく99.9%の学生が「日本から出るなんて考えたこともありませんでした」という答えになるでしょう。日本にいると見渡す限り日本の学生で、皆日本の会社に就職しているわけですから、ロンドンやニューヨークで探すといった考え方はあまりしないでしょう。また英語が不得意だとか、幸運にも、優れた企業が自国に多いといった事情があるのかなとも思えます。
ここ10年間ほどの世界の流れはグローバル化です。発展途上国の人々が経済発展により経済的に余裕ができ、英語を学び、海外に出ることができるようになってきています。その中で、日本の学生の方には「自分のやりたい仕事を世界中で探せばいい」というメンタリティーのもと行動されてはどうかということをお伝えしたいですね。家庭の事情などの制約要因がなければ、世界中でやりたい分野の仕事を見つければよいと思います。東京で気に入った仕事がなければロンドンやニューヨークで探してもいいでしょう。半分は英語能力の問題かもしれませんが、残りの半分は発想の問題です。絶対に日本(あるいは東京)でなくてはダメということではなく、いい仕事が見つかったからここ(ジュネーブなど)で働いているというだけのことです、といった姿勢も選択肢として考えてみてください。
聞き手:橋本葵 (ジュネーブ大学)
23:13
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