国際機関日本人職員増強のための取組


39日に開催されたJSAG総会において,在ジュネーブ国際機関日本政府代表部の紅谷書記官に日本政府の国際機関における日本人職員の現状や増強施策についてお話を伺いました。紅谷書記官は2006年に人事院に入庁し,20154月から在ジュネーブ国際機関日本政府代表部で主に国際機関の日本人職員増強に関する施策を担当しています。

○ 国際機関に勤務する日本人職員の現状について教えて下さい。

現在,国連関係機関で勤務する専門職以上の日本人職員は約800名ですが,他の主要国に比べるとまだまだ少ないのが現状です。日本政府は,国連関係機関で働く日本人を2025年までに1000人に引き上げるという目標を掲げており,一人でも多くの日本人が国際機関に就職し,そしてより高い役職で活躍できるよう,その支援を行っています。
ジュネーブには国連をはじめ様々な国際機関の本部や事務所が置かれており,2018年3月現在,約150名のプロフェッショナル職員が勤務しています。また,13名のJPOがジュネーブで勤務しています。(JPOについての詳細は後述)

○ 日本人職員を増強するため,日本政府はどのような取り組みを行っていますか。

国際機関への就職を希望する若い方への就職支援施策として,JPOJunior Professional Officer)派遣制度があります。外務省では,将来的に国際機関で正規職員として勤務することを志望する35歳以下の若手日本人を対象に,日本政府が派遣にかかる経費を負担して一定期間(原則2年間),各国際機関に派遣し,国際機関の正規職員となるために必要な知識や経験を積む機会を提供し,派遣期間終了後も引き続き正規職員として派遣先機関や他の国際機関に採用されることを目的として,同制度を実施しています。
これまで多くの日本人がJPOを経て国際機関の正規職員となっており,近年では,派遣者数を増やすとともに,その後の定着率を高めるべく,派遣先の事務所や部署に関する情報収集や派遣後のサポートなども強化しています。
2018年度(平成30年度)のJPO派遣候補者選考試験(JPO試験)については,315日に募集要項が公表されました。応募受付期間は4月1日(日)から5月7日(月)までとなっています。
また,幹部職員を増やすため,各機関における幹部ポストの空席情報の収集や就職希望者への情報提供,中堅レベルの職員を派遣するための取組を行っており,2017年度には,「国際機関幹部候補職員選考試験」を実施しました。
さらに,保健関係では2017年に,国立国際医療研究センターにグローバルヘルス人材戦略センターが設置され,国際保健人材の発掘,候補者への情報提供,セミナーの実施などの事業を行っています。

○ 最近のジュネーブ代表部の取組について教えてください。

ジュネーブ代表部でも各機関の人事や空席等の情報収集を強化するとともに,日本人職員の動向を把握することに努めています。
また,国際機関への就職希望者を増やし,その具体的な就職方法や,JPO派遣制度をはじめとする外務省の実施する支援方策など,国際機関への就職に役立つ情報を提供することを目的に,国際機関への就職方法に関するガイダンスや,実際に国際機関で働いている日本人職員の方との意見交換会などのイベントを開催しています。

○ 具体的にはどのようなガイダンスやイベントを行っているのでしょうか

201712月には,ジュネーブ代表部において,ジュネーブ近郊の大学に在籍する留学生やインターンの方を主な対象とし,国際機関就職説明会を実施しました。説明会には,国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)本部で勤務されている白戸純シニアリーガルオフィサーにお越しいただき,UNHCRの業務内容,職員数等のデータ,JPOから正規職員となった経緯やこれまでのキャリア,現在の担当業務などについてお話いただきました。また,説明会の後にはJSAG会員の皆様との意見交換会を開催し, 8の国際機関から15名の日本人職員にご参加いただき,それぞれの国際機関での仕事内容や,就職方法,キャリアの積み方などについて活発な意見交換が行われました。
20182月には,初めての試みとして,フランス・リヨンに出張し,リヨン近郊の日本人留学生の方や国際機関への就職に関心のある方を対象に,国際機関就職ガイダンスを開催しました。同ガイダンスには,国際移住機関(IOM)本部事務局長室で勤務されている望月大平上級連絡調整官にお越しいただき,お話やアドバイスをいただきました。
 さらに,3月には当代表部において,国際機関のインターンへの応募や,JPO試験への応募を検討している方を対象に,国際機関の応募書類の書き方に関するセミナーを開催します。国際機関への就職やキャリア形成には空席に応募することが常に求められるため,採用担当者の目に止まる履歴書や,簡潔で要点を押さえたカバーレターを書くスキルが重要となっています。講師にILO人事局の伊藤美保子採用担当官をお迎えし,採用側から見た効果的な履歴書やカバーレターの書き方や,応募の際に注意すべき点等についてお話いただきます。
ジュネーブ代表部では,今後も国際機関志望者への情報提供の機会を積極的に設け,候補者の発掘に努めていきたいと考えておりますので,引き続きJSAGの皆様にもご協力をいただければ幸いです。

(注)インタビューの内容については、個人的な見解であり,所属組織の公式見解ではない旨、ご了承ください。





国際機関邦人職員インタビュー 世界保健機関(WHO) 濱田 洋平さん

WHO グローバル結核プログラム テクニカルオフィサー(JPO)
濱田 洋平

JPO勤務に至るまでの経緯を教えてください

もともと国際保健に興味があり、医学部を卒業後、内科の臨床研修の2年間を経て、感染症の研修を3年間行いました。研修期間中のHIV患者さんの診療を通して感じたのが、現在のHIVの治療薬は非常に進歩しており、早期にHIVが診断され、病院を受診し、標準的な治療を受ければ、ほとんどの場合は寿命を全うする事ができるということです。しかし、残念ながらHIVの発見、病院受診が遅れたためだけに命を落とす人々が日本でも未だに多くいます。また、途上国では先進国での標準的な治療薬もなかなか使うことができません。これらの事は医師の診療だけで解決できる問題ではありません。よって、どのようにしたらすでに確立した最適な治療を届ける事ができるのかと考えるようになりました。また臨床研修の期間中に、HIV検査、カウンセリングの質を改善するというJICAによるケニアでのプロジェクトにインターンとして2ヶ月間関わる機会を得ることができました。それまでの患者さんを診るという経験とは全く異なるものでしたが、とても興味深く感じました。そのような経験から公衆衛生についてより学んでみたいと思い、公衆衛生の修士号を取得したのち、WHO本部のグローバル結核プログラムにJPOとして着任することになりました。

業務内容について教えてください

業務はいろいろとありますが、ここ最近の主なものは、潜在性結核に関する新しいガイドラインの作成です。最近までは潜在性結核の治療というのは6ヶ月間毎日薬を飲む必要がありましたが、ここ最近になって3ヶ月間、週一回の内服ですむ治療が確立され、米国などの一部の国で使われるようになりました。しかし、途上国ではその使用に関するWHOの推奨はなく、未だに6ヶ月間の内服治療が行われています。そこで、これに関する新しい推奨を含めて、最新の知見に基づいた潜在性結核の診断、治療の新たなガイドラインを作成する事になり、主任担当者として関わることになりました。その作成のプロセスが2016年の6月に始まり、専門家会議などを経て、2017年9月にようやくWHOのガイドライン審査委員会への最終稿の提出にこぎつける事ができました。それに至るまではガイドライン作成部会の裏方としての非常に地道かつ時に地味な作業です。例えばガイドラインのプロポーザル作成、ガイドライン委員会に招聘する専門家の候補者のリストアップ、専門家との連絡や、会議の運営などです。また、推奨の根拠(エビデンス)を検討するための、論文の総括的レビューを自身でも担当し、PCの画面でひたすら論文を読むことが続くこともありました。このような仕事は実際に患者さんを診ることとくらべると日々の手応えはやや感じにくいものがあります。しかし、すべての下準備を終えてガイドライン作成会議が開催され、各国からの多種多様な専門家とともに、ベストな潜在性結核の診断、治療を真剣に議論し、推奨ができあがった時はとても感慨深かったです。また、実際に作成したガイドラインにより潜在性結核のよりよい治療方法を多くの人々に届ける事ができるかもしれません。このようなところがWHOで働くことの醍醐味であると思います。

WHOでの勤務を目指すにはどのようなキャリアが求められると思いますか

医学生などでWHOのインターンに来る人たちに必ず聞かれるのが、どのくらい臨床経験を積むべきかということです。これは自分自身もよく考えました。答えは様々だと思いますが自分なりに感じたことを示したいと思います。


WHOでの職務は臨床経験が求められないことも多く、必須ではありません。むしろ、臨床経験だけでは不十分と言ってよいでしょう。しかし、だからといって臨床経験が全く役に立たないわけではなく、業務内容によっては求められる事もありますし、ガイドラインの作成や専門家との議論の際に役立つこともありました。臨床経験はあくまで、疫学、統計、プロジェクトマネージメント、経済分析、発展途上国での実務経験などの数ある強みのなかの一つだと思います。WHOでもポストによって多種多様なスキル、経験が要求されるので、臨床経験がなくても他の強みを活かす事ができると思いますし、逆に臨床経験が活かされる場合もあるでしょう。ですので結局は自分に合ったスキル、経験を磨きながら、臨機応変にその時点でのベストと思える選択をしていくということに尽きると思います。これから国際機関でのキャリアを目指す人々の成功を祈念いたします。

経歴
長崎大学医学部医学科卒業。国立国際医療研究センター内科初期研修、感染症後期研修を経て2015年3月から2017年11月までJPOとしてWHOグローバル結核プログラムに勤務。医師、公衆衛生学修士。

日本人職員との意見交換会

JSAGは12月7日(木),ジュネーブまたは近郊在住の日本人留学生やインターンの方々を対象とした,国際機関に勤務する日本人職員との意見交換会(在ジュネーブ国際機関日本政府代表部主催)に協力しました。同会は国際機関への就職方法等に関する説明会に引き続いて行われ,参加した25名の留学生・インターンの方々から,国際機関での仕事内容や,その魅力,これまでのキャリアなど,様々な質問が職員に寄せられました。

意見交換会の冒頭でJSAGの國井会長は,国際機関の職員を目指す上で,パッション(情熱)をもって仕事にあたること,そして失敗を恐れず,失敗から学んで強くなることの重要性を述べました。ご自身のキャリアについても触れられ,様々な経験を積んでから国際機関で働くメリットについて言及し,キャリアパスの多様性についても述べました。


参加した国際機関職員からは,留学生・インターンの方々が開発の諸課題について熱意をもって学究に取り組んでいることを歓迎し,励ます言葉が聞かれました。国際社会の課題解決に情熱を示す彼らが,いつか国際的な舞台で活躍してくれることをJSAGとしても応援したいと思います。

千葉大学の学生および教職員の皆様がジュネーブを訪問

2017年9月25日からの3日間、千葉大学予防医学センターを中心とした学部・大学院の学生さん、教職員の皆様総勢25名(西田篤司・副学長を団長として、学部・大学院生17名、教職員8名)がジュネーブの国連・国際機関を訪問されました。同大学の国際的人材育成の取り組みの一環とのことで、今回で6回目を迎えます。
25日はWHO、26日はGlobal Fund、IFRC、ILOをそれぞれ訪問され、国連や国際機関で働く使命、どのように現職についたか、仕事の内容、日本人として多国籍の職場で働くことでのやりやすさ、難しさ、やりがい、若い日本人が仕事を見つけるには、などのディスカッションが行われました。

WHO訪問

Global Fundにて

IFRCで活発なグループディスカッション

ILOにて

また、26日は在ジュネーブ日本政府代表部に於いて紅谷明書記官から「国連職員になるには」と題したセミナーが行われ、学生さんたちは皆熱心にメモを取っていました。

代表部でのセミナー「国連職員への道」

セミナーの後、夕方18時半からはJSAG会員との交流会が開かれ、志野光子大使による歓迎のあいさつ、千葉大学の西田篤司副学長から受け入れお礼のあいさつがあり、その後活発な熱い議論が交わされました。

志野大使による歓迎のあいさつ

西田篤司・千葉大学副学長によるあいさつ

学生さんとJSAG会員との交流会の様子

千葉大学の学生さんからは「今まで海外で働いていた人と話したことはあるが、ネガティブな話を聞くことが多かった。JSAGの皆さんとの交流会では、皆さんとても前向きで、大変な話も明るくされるのに目からうろこが落ちた感じがする。これからは今回お話を聞いた方たちを自分のロールモデルにしていく」といった感想や、「自分は今までなんとなく大学に行き、一応の目的があって大学院に来たが、JSAGの皆さんの使命感、行動力がすごくて、自分が今までなんとなく行動してきたことに実は今回初めて気づいた。これからはもっと目的意識を明確にして勉強していきたい」などといった声が聞かれました。
 また、一昨年この研修会に参加した大学院生が今年9月で博士課程を修了されましたが、ジュネーブに来たことでフランス語の街も恐るるに足らず、と気づき、この10月からフランスのリヨンの大学でポスドクを開始する、といううれしい報告もありました。
一行は、最終日にはUNOGのガイドツアーに参加され、国際連盟時代から続く世界の国際平和への取り組みに思いを馳せて全員無事に帰国されました。


今後もJSAGは若い日本人学生の皆さんを応援していきたいと思います。
(WHO戸高恵美子)

Gaviワクチンアライアンスでの勤務を終えて

国立国際医療研究センター 国際感染症センター
氏家 無限
(前職:Senior Program Manager, Vaccine Implementation
Country Support, Gavi, The Vaccine Alliance)




      派遣先で行った業務を教えてください
Gavi, The Vaccine Alliance (Gavi)は、2000年に開催された世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)で発足したグローバル・パートナーシップ機関です。予防接種を受ける機会がないため予防可能な感染症によって命を落とす子供たちが多くいる低所得国と、予防接種支援のための出資国、世界保健機関(WHO)、国際児童基金(UNICEF)、世界銀行、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、ワクチン業界、研究・技術機関や市民社会団体等をひとつに結びつけることで、子供たちが予防接種を受ける権利の公平性を高め、世界のワクチンギャップを改善することを目指した活動を行っています。
Gavi内には上記の活動を行うため、様々な役割を担った部署が存在しますが(組織図参照)、私は厚生労働省からの出向職員として、WHOUNICEFと共に支援対象国の予防接種プログラムを直接支援するVaccine Implementationチームに所属し、肺炎球菌ワクチンの定期接種プログラムの運営や麻疹の予防接種キャンペーンに関する技術的課題に関するガイドライン作成等の業務に従事していました。
具体的な肺炎球菌プログラムに関する職務内容としては、Gaviが支援する73の低所得国に対して、支援プログラムの申請、独立評価委員会での申請書の評価、支援承認後のプログラム導入、プログラム導入後の運営、定期的なプログラム評価、評価に基づく改善策の実施等、プログラムの様々なフェーズにおける支援を行うことが求められます。支援のアプローチは、プログラム全体として、または各国の現状に対して等、状況に応じて変わります。また、必要な支援活動を実施するための同僚も、Gavi内部の各支援国の担当者、コールドチェーン等のワクチンに関連する保健システムを支援するチーム、プログラムの監視と評価を行っているチーム、今後の市場予測を実施しているチーム、契約や法的な対応を検討するチーム、プログラムの運営に必要な情報等を広く発信するチーム等、目的や必要に応じて様々です。更には、医学的見地から技術的方針を決定するWHO、ワクチンの手配と搬送を担当するUNICEF、ワクチンを提供する製薬企業、Gaviのプログラムを支援するドナー等、外部の組織とも日常的に連携しながら、円滑にプログラムが運営できるように調整等を行っていました。

勤務を終えての感想はいかがでしょうか

過去の臨床医や研究者としての経験、厚生労働技官としての行政経験と比較して、Gaviでは、更に広い視野で、低所得国に対する世界の予防接種支援計画について理解を深めることができました。また、ワクチンの開発から予防接種の推奨・プログラムの導入と運営、将来のワクチン市場の動向に至るまで、予防接種支援計画の最前線で、プログラム運営に携わり、様々な専門家や同僚等との議論をする機会が得られたことは、非常に有意義な経験となりました。一方で、Gaviでの業務はプログラム運営に関する事務的な内容が多くを占めていて、これまで私が経験してきた仕事とは大きく異なっていたため、まずは業務全体に関わる組織体系や流れを理解し、日常的に使用される専門用語や略語、担当者の配置やその役割を把握する必要がある等、スムーズに仕事をこなせるようになるまでには、かなりの時間を要しました。幸い、上司や同僚に恵まれ、多くのサポートをいただきながら、ようやく仕事にも慣れたところで帰国することになり、残念に感じる部分もありました。


国際機関では、非常に大きな視野で、各領域における最新の情報を基礎に議論し、世界全体が目指すべき方向性について方針を定め、多くの人々に大きな影響のある施策に関わることができる、大変魅力的な仕事であると思います。その一方で、個人として関わることができる職務内容が限定されたり、仕事の結果が全体の成果に直結するとは限らず、成果を実感できる具体的なフィードバックを得られにくいことがあったり、また、一般に契約期間が短期であるため生活基盤が安定しにくい等、継続して活動するためには、いろいろな困難も伴う職種であるように思います。そのため、将来、国際機関で働くことを目指す方々は、何のためにそこで働くことを目指すのか、人生全体におけるその仕事の位置づけ等について事前によく考え、確立した自分なりの考えを持っておくことが、そこでの職務経験をより豊かなものとし、更なる進路について検討するために有用であると思います。また、私自身の経験では、国際機関で活躍するためには、専門的知識以上に、自分自身の考えを的確に周囲に対して表現・主張できる能力、様々な背景や文化等を持つ職場に適応して、円滑に職務を遂行するための人間関係を構築するためのコミュニケーション能力が特に重要であると感じました。

今後、国家間の人や物や情報の往来がますます活発となり、日本の方々が国際社会の一員として国連機関等で働く機会も更に増えると思います。こうした、国際化の進む社会において、私がここで共有させていただく経験等が、何らかの形で、将来、国際機関で働くことを目指す方々のお役に立つこととなれば幸いです。最後に、このような機会を与えていただいた関係者の皆様に深謝致します。


略歴:
長崎大学熱帯医学研究所COE研究員、国立国際医療研究センター国際感染症センター医師を経て、2013年より厚生労働技官として健康局結核感染症課にて感染症危機管理対応及び予防接種施策に関する業務を担当。2015年より感染症危機管理専門家養成プログラムに参加し、20165月から20174月までGaviワクチンアライアンスでシニアプログラムマネージャーとして、麻疹及び肺炎球菌ワクチンプログラムに関する業務を担当した。20176月より現職。医師、熱帯医学修士。専門は予防接種、熱帯感染症、渡航医学。

 

国連機関邦人職員インタビュー 世界保健機関(WHO) 宮城島一明さん

今回のインタビューでは世界保健機関・食品安全・人畜共通感染症部長の宮城島一明さんにお話を伺いました。宮城島さんは2007年に国連フォーラムのインタビューにも登場されています。(http://www.unforum.org/unstaff/64.html)
その後から現在に至るまでのお話を中心に、国連機関で幹部レベルのポジションに付くために必要なことなどを交えてお話頂きました。
  
1.     国際食品規格委員会事務局長から現在のお仕事につくまでの経緯を教えてください。
 私の社会人としての出発点は役人ですから、定期的に人事異動があり、『長く同じポストにいない癖』がついていました。国際公務員になってからも、同じところに長くいない方が自分のためにも周りのためにも良いと考えています。
そこで国際食品規格委員会での勤務が5年間に達した頃から次の仕事を探し始め、2009年の秋から国際獣疫事務局 (OIE)で科学技術部部長兼事務局次長として働くことになりました。
国際獣疫事務局(OIE)での仕事で一番印象に残っているのは牛疫の世界撲滅宣言をしたことですね。今まで人類が撲滅した感染症は天然痘と牛疫のみですが、天然痘については撲滅宣言と同時にアメリカとロシアの研究所に残されたウイルス株が生物兵器としてみなされるようになりました。現在でもWHOで残った株の扱いについて議論が行われています。ただ、天然痘の撲滅は冷戦の真っ只中で、世界がアメリカとソ連を中心に二分されていたために保存株が比較的スムーズにこれらの国に集まりました。一方で牛疫の最後のアウトブレイクは、冷戦後の1990年代でしたので、ウイルス株が特定の国に集まることはなく、未だに世界のどの国が保存しているのか完全にはわかっていません。
牛疫の撲滅においては、最後に残った地域はインド・パキスタン国境とアフリカの角でした。これらの地域はともに戦争があってワクチン接種が進まなかった地域でした。ウイルスの撲滅という科学的問題にも、紛争や内戦という人災の影響があり、人間の活動と病気というものが関連していることを感じました。
時代や状況の違いはありましたが、天然痘撲滅から学ぶことも多くあったため、私は牛疫の撲滅宣言の準備にあたり、パリからジュネーブに足を運び、天然痘の専門家に会ってその経験を参考にしました。このように動物の病気と人間の病気というのはお互いに学べるものも多いので、もっと動物衛生と公衆衛生が相互に交わっていくと良いと思います。
また、世界貿易機関(WTO)の訴訟に関わったのも面白い経験の一つでした。WTOは自由貿易を推進するための機関ですが、科学的なルールに基づいた感染症の拡大防止(防疫措置)のためであれば貿易を制限する事は認められています。しかし、国によっては自国の生産者を保護するために、防疫措置の名を借りて科学的根拠に基づかない輸入制限を設けようとする場合があります。そういうときWTOの紛争裁定バネルが、輸入国が設けている貿易障壁が国際基準に照らして妥当なものか審査するわけです。私がOIEにいた時にある二国間で訴訟が起きたのですが、輸入国側は輸出国側の防疫措置が十分でないことを理由に輸入を制限しようとしました。OIEの国際基準に基づくと科学的に危険性はないと考えられましたが、輸入国はOIEのリスク評価に瑕疵があると主張して譲りませんでした。OIEは情報を開示して、その国際的ルールとリスク評価は正しいということをきちんと主張しました。
訴訟の結果がでて、判例となればとても嬉しかったのですが、判決が出る直前で訴訟が取り下げられてしまい、結果として何も残らなくなってしまいました。行政という分野では、すごく努力しても最終的な結果が認定されず、膨大な時間をかけてやったものが形に残らないことがあるのです。それはそれであきらめますね(笑)。
国際獣疫事務局で2013年の春まで3年半働いたあと、現在のWHOでのポストが空き、食品安全・人畜共通感染症部の部長になることになりました。

2.     現在のお仕事について教えてください。
食品安全というのは面白い分野で、人間誰でも生きて行くために何かを食べますが、100%の安全性にこだわったら、何も食べられなくなってしまう。ゼロリスクの神話です。その折り合いをつけていくのがリスク評価、リスク管理です。
低所得の国であればこそ食品安全は重要なのですが、むしろ食糧の質よりも量が重要視され、食品安全は軽視されがちです。ですから国民所得が向上し低所得国から中所得国に移るあたりで初めて問題として認識されてくることが多い分野です。
WHOの多くの事業は、ほとんどが発展途上国相手ですが、食品安全は発展段階に関わらず、全ての国で大切な分野です。しかし、各国内での担当省庁が細分化されている事による縦割りの弊害を受けやすく、そもそも保健省に権限がない国も多いことから、WHOの執行理事会や総会でもめったに議論されることがありません。WHOの現事務局長が食品安全に対して理解が深く、2015年に世界保健デーのテーマが食品安全になったりして状況はよくなってきましたが、依然として注目度は高くはありません。
この分野の特徴としては、汚染食品を食べて下痢をしても病院に行く人は一部、その中で食品が原因としてと特定されて報告されるのはほんの一部という圧倒的な報告率の低さが挙げられます。また、化学物質による食品の汚染が慢性的疾患の原因となる場合がありますが、病気として現れるまでに十数年以上かかってくるので因果関係の立証が困難です。そして医師だけではなく様々な職種の人々が関わる分野であることも食品衛生の分野の特徴としてあげられるでしょう。食品安全はともすれば忘れられがちな問題ですから、旗を振って問題の可視化をするということが難しくもあり、またやりがいでもあります。

3.     国連機関で幹部レベルのポジションにつくために求められることは何だと思われますか。
まずは、自分が何をしたいのか見極めること、管理職につきたいのか敬遠するのかきちんと考えることが大切です。管理職の仕事は、計画書報告書の作成や人事、資金集めが中心となります。テクニカルな仕事が楽しい人は管理職を目指さない方が良いでしょう。P4P5で定年を迎えるのが悪い人生とは決して思いませんし、全員が管理職を目指す必要はないと思います。実際、周りから尊敬されるかどうかは等級とは関係ないし、一方そういう人が管理職になっても組織のためになるとは限りません。
管理職に向いている人というのは、多国間の政治的ゲームを楽しいと思う、とまではいかないにしてもそれに興味を持てる人だと思います。国際機関の仕事は、大きく分けて二つあり、一つは国際基準づくりの仕事、つまりこれは全ての加盟国と広く平等に接してつきあう仕事、もう一つは途上国に対する援助の仕事、つまり少数の国と深く付き合う仕事です。自分がこの2つのうちどちらに向いているのかを考えなければなりません。私自身は発展途上国の特定の国と深く付き合うことには向いていませんが、たくさんの国と薄く広く付き合うのには適性があると思っています。国際ニュースは欠かさず見ますし、一般的な経済雑誌なども普段から読むようにしていました。国際政治の展望と自分の仕事が結びつくのが楽しい人でないと管理職は難しい仕事だと思います。

また、英語を書く力も大切だと思います。プロジェクトベースの仕事をする人にとっては、目に見える結果、仕事の最終成果は一本の報告書ではなくその国の人の暮らしぶりがよくなるということですが、多国間交渉がベースの人にとっては議事録が全てであるわけです。美しい議事録を書く人が稀にいて、それは本当にすごい能力です。5時間10時間の侃々諤々の議論を、過不足無くたったの5行にまとめてしまう、そして全ての加盟国がこれに納得してその次の段階に進むことができる、これは本当に事務局冥利につきることです。
サマライズする力とは、ああでもないこうでもないという数時間の議論を結晶化させる言葉を見つける力だと言えないでしょうか。見つけた言葉というのは、実は誰も議論の最中には実際には発していないかもしれないのです。それでもためらわないで議事録に使えることが重要ですよね。そしてまた発言者すら気付いていない良いアイデアに形を与える力、議論に出口を見つけ、次の会議につなげるプロセスを作り出し提案する力も国際公務員にとって非常に重要です。これらの付加価値を創出する仕事は事務局がやらないと誰もやらないですから、言語化する力というのは国際公務員にとってすごく大切だと思います。

4.     国際機関を目指す、もしくは現在働いている若者に対してアドバイスを頂けますか。
まず、好んで色んな経験をするべきだと思います。1つのポスト、職場にしがみつくよりもフレキシブルに人生設計を立て、様々なことを経験すると良いでしょう。というのも、部下や同僚、上司として付き合いやすいと思う人は、しばしば色々な経験をしてきて、みんなが違うことを考えているということを前提としている人たちです。そういう人は間口が広いです。同じところに若い頃からずっといるような人にはあまり魅力を感じません。また、基本的に国連機関の事務局の仕事は加盟国とのお付き合いですから、加盟国の内情や仕組みがどうなっているのか理解していることは重要です。つまりある国の政府で働いた経験があり、加盟国側の痛いところ痒いところがわかっていると、仕事上有益だと思います。
また、若いときには自分の上司を選ぶのは難しいかもしれませんが、ある段階からは自分の上司も選ぶべきだと思います。自分を磨くのは上司との関係が大きいですから、尊敬できない上司のもとに長くいても仕方がありません。自分が成長できる上司を選ぶのは仕事の内容と同じくらい大事だと思います。
少し話が変わりますが、応募の際のカバーレターについて言うと、分量、そして最初の1パラグラフで読み手を引き込む力が大切です。筆記試験では時間も内容も制限されていますから、カバーレターは自由に自分をアピールできる貴重な場です。毎週応募して使いまわしているものかどうかは採用側にはひと目でわかります。post descriptionに応じてきちんと書きわけることが重要ですね。

5.     日本人であることは先生のお仕事に影響を与えていらっしゃいますか。
仕事上あまり意識することはありませんね。ただ強いて言えば、情報の共有には気をつけるようにしています。日本では皆が大部屋で仕事をしていることが多いので、自然に情報共有がなされていて、隣の人が何をしているかだいたい知っているものです。一方、国際機関では個室で仕事をしていますから、情報の共有が難しい。その壁をどう壊していくか。日本的かどうかはわかりませんが、情報共有を通じたチーム作りを心がけています。
自分の下手な英語へのコンプレックスとどう向き合うかという点で言えば、永久にネイティブのようには喋れるようにならないのだとある時気付いて以降、変な気負いがなくなりました。ただし、自分の書いたものへの批判的な目は常に持つようにしています。ネイティブの人だったら自分の文章を二度も三度も見返すことはないでしょうが、常に見返すことで、間違いを減らし、読みやすい文章にするようにしています。また、シェイクスピアのように十年に一度見るか見ないかという特別な英語を使うのではなく、International Englishを実践するように心がけ、枝葉末節にこだわるのではなく、メッセージが伝わることに主眼を置くように意識しています。 

インタビュー日時:2017年3月1日 
聞き手:山本桃子 (WHOインター/東京大学医学部医学科)

国際機関邦人職員インタビュー 世界保健機関(WHO) 小川祐司さん

 今回の国連職員インタビューでは、世界保健機関(WHO)Dental Officerの小川祐司さんにお話を伺いました。  
「口の健康なくして全身の健康は成り立たない」―口腔保健の重要性


現在されている仕事を教えてください。
世界的に口の健康の重要性は残念ながらまだ十分に認知されていません。WHOでは口の健康の重要性を広めるために、口と全身の健康の関連性、つまり口腔疾患はNCDs(非感染性疾患)の一つである事を提唱しています。特に口の健康と全身の健康の両方に影響を及ぼす、Common Risk Factorコントロールの必要性を提唱し、生活習慣の改善を促しています。 
喫煙が全身に悪影響を与えることはみなさんご存知だと思いますが、歯周病や口腔癌など口腔への影響を与える事も指摘されています。つまり喫煙対策は歯科の分野からも取り組む事が必要とされているという事です。現在WHOでは歯科治療の一環として禁煙指導をどのように取り入れていくべきかのプロトコールを作っています。 
砂糖の摂取は糖尿病や肥満に影響する事はもちろん、歯科ではむし歯に関与しています。従って歯科医師という立場で砂糖の摂取量のコントロールすることは、口の健康を通じて全身の健康にも貢献できると考えています。

以上のようなCommon Risk Factorの考え方をどれだけ定着させ歯科の重要性を普及する事が出来るかが課題だと思います。 
口腔保健は直接的に命に関わる分野ではないため、どうしても他の分野と比べて優先順位が低くなってしまいます。しかし生活習慣病の蔓延でQOL(Quality of Life)が下がるというエビデンスが出てきている中で、QOLを下げないようにするためには「食べる」事が大切だと考えられています。また、口腔保健対策は費用対効果が高いというエビデンスも多くあります。今後、口腔保健の重要性の認知がより深まる事を願います。 

海外大学院への進学、新潟大学での博士課程を経てWHO

シドニー大学の大学院に進学されていますが、その動機、その頃に描いていた自分の将来像を教えてください。 
もともと父親が歯科医師であったため、自分も歯科医師になるようにと言われていました。しかし、目の前の患者さんを治療するというよりも、より多くの人の口腔の健康に興味がありました。大学時代の恩師がこの考えに賛同してくれて、海外で勉強する事を薦めてくれオーストラリアで修士号をとる事になりました。オーストラリアへの留学をした理由は生活のしやすさもありますが、むし歯予防のための公衆衛生対策、例えばフッ素の水道水への添加(Fluoridation)が非常に進んでいた事も大きな理由の一つです。修士課程では口腔保健と国際保健の基礎を勉強する事が出来たと思います。また外国の大学で勉強するという初めての経験の中で、多様な人種、バックグラウンドの人々と一緒に勉強し、それぞれの国の背景や文化など教科書だけでは学べないような 様々なものを学ぶ事ができました。その経験は現在WHOで働くにも少なからず役に立っており、そういう意味からも留学経験は非常に有意義だったと思います。
  
留学後にWHOで働く事になった経緯を教えてください。
修士課程を終えた後に、新潟大学で博士課程に進学しました。 国際学会に参加した際に偶然私の前任のWHODental Officerに会いました。新潟大学の教授がWHOの仕事を長年されていた経緯もあり、そこでWHOに来て仕事をしないか、という話が持ち上がり2003年から2年間Short Term Professionalとして仕事を行いました。2007年には新潟大学が日本で唯一の歯科分野におけるWHO Collaborating Centerとなりました。その後前任のDental Officerが退任された後に私が赴任したのが2014年の事です。 
現在振り返ってみると、新潟大学の博士課程への進学を決めた事が現在WHOでの仕事をする事に繋がり、国際口腔保健に携わることになったターニングポイントだったと思います。
  
口腔保健分野における日本からの国際貢献のための仕組みを作りたい 
帰国後はどのような仕事をされますか?
帰国後はもともとの新潟大学に戻りますが、日本の口腔保健分野が国際的に貢献できるような仕組みを作る事が自分の仕事だと思っています。特にそのための人材育成が重要だと考えています。また、口の健康が全身の健康にとって重要だというエビデンスをより強固なものにしていく必要があります。特に今までのエビデンスはそのほとんどが先進国からのものでしたが、今後は発展途上国からのエビデンス、経験の共有も求められています。 NCDsはもはや先進国だけの問題ではなく、発展途上国でも大きな問題となってきています。つまり先進国-発展途上国に関わらずNCDsの対策に取り組んで行くことが必要となります。発展途上国においても口の健康とNCDsの関連性についてのエビデンスを示し、それに基づいた対策が必要になってきていると思います。

また、口腔疾患の有病率などのデータを集める事も重要だと考えています。世界的には口腔疾患の状況については情報が限られています。これは残念ながら口腔保健が軽視されていたためでもあると思います。小児のむし歯についてはまだ問題として認識されている方ですが、成人の歯周病や高齢者の歯の喪失の程度などといった状況についてのデータがほとんどありません。これらの疾患の状況をモニターするDisease Surveillanceの確立が今後の課題だと思います。各国が口腔保健の政策を立案する際にもデータがない状況ではエビデンスに基づいた適切な政策が作られません。現在ミャンマーにおいてWHOが策定した標準的な口腔疾患の調査方法について現地の人々にトレーニングを行い、それを踏まえて20171月から歯科疾患実態調査が行われています。 トレーニングから調査、解析、データのまとめとそれに基づく政策の立案までをモデルパッケージとして考えており、他の国でも同様に実行できるようになれば、データの不足という問題点の解決に繋がっていくのではと考えています。
ミャンマーでの技術指導にて
このような国際保健の分野を目指す学生からのよくある質問として、どれくらいの臨床経験が必要なのかという事がありますが、ご自身の考えはありますか? 
私が臨床をしなくても、代わりに臨床をしてくれる人がたくさんいるので、臨床をしていない事へのコンプレックスは特別ありません。しかし、ある程度臨床をしてから公衆衛生のフィールドに入る事は大切であり、最低限の経験は必要だと思います。 

国際保健を目指す歯科学生へのメッセージをお願いします。
このグローバル社会の中で海外に目を向けて働くことが当たり前になりつつありますが、歯科の分野で国際的に働く人は少ないと思います。特に日本人となると本当に少ないです。だからこそ可能性は大いにあるでしょう。その道を見出すためには英語力はもちろん、運やタイミングも重要だと思います。
一方で、学生に対して「頑張れ、頑張れ」というのみでなく、学生が自信をもって海外に出ていけるような仕組み、体制をつくることが必要だと思います。例えば、日本の歯科大学で「国際歯科保健」を専門で行う教室を作る事も必要な事だと考えます。

聞き:原田有理子 (WHOインターン/九州大学歯学部)
2016年3月11日