Gaviワクチンアライアンスでの勤務を終えて

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国立国際医療研究センター 国際感染症センター
氏家 無限
(前職:Senior Program Manager, Vaccine Implementation
Country Support, Gavi, The Vaccine Alliance)




      派遣先で行った業務を教えてください
Gavi, The Vaccine Alliance (Gavi)は、2000年に開催された世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)で発足したグローバル・パートナーシップ機関です。予防接種を受ける機会がないため予防可能な感染症によって命を落とす子供たちが多くいる低所得国と、予防接種支援のための出資国、世界保健機関(WHO)、国際児童基金(UNICEF)、世界銀行、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、ワクチン業界、研究・技術機関や市民社会団体等をひとつに結びつけることで、子供たちが予防接種を受ける権利の公平性を高め、世界のワクチンギャップを改善することを目指した活動を行っています。
Gavi内には上記の活動を行うため、様々な役割を担った部署が存在しますが(組織図参照)、私は厚生労働省からの出向職員として、WHOUNICEFと共に支援対象国の予防接種プログラムを直接支援するVaccine Implementationチームに所属し、肺炎球菌ワクチンの定期接種プログラムの運営や麻疹の予防接種キャンペーンに関する技術的課題に関するガイドライン作成等の業務に従事していました。
具体的な肺炎球菌プログラムに関する職務内容としては、Gaviが支援する73の低所得国に対して、支援プログラムの申請、独立評価委員会での申請書の評価、支援承認後のプログラム導入、プログラム導入後の運営、定期的なプログラム評価、評価に基づく改善策の実施等、プログラムの様々なフェーズにおける支援を行うことが求められます。支援のアプローチは、プログラム全体として、または各国の現状に対して等、状況に応じて変わります。また、必要な支援活動を実施するための同僚も、Gavi内部の各支援国の担当者、コールドチェーン等のワクチンに関連する保健システムを支援するチーム、プログラムの監視と評価を行っているチーム、今後の市場予測を実施しているチーム、契約や法的な対応を検討するチーム、プログラムの運営に必要な情報等を広く発信するチーム等、目的や必要に応じて様々です。更には、医学的見地から技術的方針を決定するWHO、ワクチンの手配と搬送を担当するUNICEF、ワクチンを提供する製薬企業、Gaviのプログラムを支援するドナー等、外部の組織とも日常的に連携しながら、円滑にプログラムが運営できるように調整等を行っていました。

勤務を終えての感想はいかがでしょうか

過去の臨床医や研究者としての経験、厚生労働技官としての行政経験と比較して、Gaviでは、更に広い視野で、低所得国に対する世界の予防接種支援計画について理解を深めることができました。また、ワクチンの開発から予防接種の推奨・プログラムの導入と運営、将来のワクチン市場の動向に至るまで、予防接種支援計画の最前線で、プログラム運営に携わり、様々な専門家や同僚等との議論をする機会が得られたことは、非常に有意義な経験となりました。一方で、Gaviでの業務はプログラム運営に関する事務的な内容が多くを占めていて、これまで私が経験してきた仕事とは大きく異なっていたため、まずは業務全体に関わる組織体系や流れを理解し、日常的に使用される専門用語や略語、担当者の配置やその役割を把握する必要がある等、スムーズに仕事をこなせるようになるまでには、かなりの時間を要しました。幸い、上司や同僚に恵まれ、多くのサポートをいただきながら、ようやく仕事にも慣れたところで帰国することになり、残念に感じる部分もありました。


国際機関では、非常に大きな視野で、各領域における最新の情報を基礎に議論し、世界全体が目指すべき方向性について方針を定め、多くの人々に大きな影響のある施策に関わることができる、大変魅力的な仕事であると思います。その一方で、個人として関わることができる職務内容が限定されたり、仕事の結果が全体の成果に直結するとは限らず、成果を実感できる具体的なフィードバックを得られにくいことがあったり、また、一般に契約期間が短期であるため生活基盤が安定しにくい等、継続して活動するためには、いろいろな困難も伴う職種であるように思います。そのため、将来、国際機関で働くことを目指す方々は、何のためにそこで働くことを目指すのか、人生全体におけるその仕事の位置づけ等について事前によく考え、確立した自分なりの考えを持っておくことが、そこでの職務経験をより豊かなものとし、更なる進路について検討するために有用であると思います。また、私自身の経験では、国際機関で活躍するためには、専門的知識以上に、自分自身の考えを的確に周囲に対して表現・主張できる能力、様々な背景や文化等を持つ職場に適応して、円滑に職務を遂行するための人間関係を構築するためのコミュニケーション能力が特に重要であると感じました。

今後、国家間の人や物や情報の往来がますます活発となり、日本の方々が国際社会の一員として国連機関等で働く機会も更に増えると思います。こうした、国際化の進む社会において、私がここで共有させていただく経験等が、何らかの形で、将来、国際機関で働くことを目指す方々のお役に立つこととなれば幸いです。最後に、このような機会を与えていただいた関係者の皆様に深謝致します。


略歴:
長崎大学熱帯医学研究所COE研究員、国立国際医療研究センター国際感染症センター医師を経て、2013年より厚生労働技官として健康局結核感染症課にて感染症危機管理対応及び予防接種施策に関する業務を担当。2015年より感染症危機管理専門家養成プログラムに参加し、20165月から20174月までGaviワクチンアライアンスでシニアプログラムマネージャーとして、麻疹及び肺炎球菌ワクチンプログラムに関する業務を担当した。20176月より現職。医師、熱帯医学修士。専門は予防接種、熱帯感染症、渡航医学。

 

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