WHOでの勤務を終えて-これから国際機関での勤務を目指す皆様へ  

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                  友川 幸 
WHO本部、非感染症病および精神衛生局  
非感染症予防部、ヘルスプロモーションチーム 




信州大学の教育学部に勤務しております、友川です。ジュネーブ滞在中は、JSAGが企画する懇親会や勉強会に参加させていただき、専門や組織を超えて、交流ができたことを大変感謝しております。以下では、WHOのコンサルタントとして行った業務の内容を紹介させていただくとともに、これから国際機関での勤務を目指す皆様へのメッセージを述べさせていただきます。
WHO会議で参加者とともに(左端が筆者)
私は、学校保健のコンサルタントとして、WHOの生活習慣病及び精神衛生の部局で1年間勤務しました。主な仕事としては、1)学校保健の推進のためのエビデンスの創出及びアドボカシー、2)学校保健に関する技術支援、そして、3WHOの地域・国事務所、本部内で学校保健に関わる部署、他の国連機関及び国際NGOとの連携強化に取り組みました。
1) 学校保健の推進のためのエビデンスの創出及びアドボカシーに関しては、2015年の11月に、WHOの南アジア地域事務所と協力しながら、8年ぶりとなるWHO学校保健専門家会議を企画、運営しました。この専門家会議では、アジア・アフリカを中心に世界の25の国々から、70名を超える学校保健の関係者(教育省及び保健省の職員、学術機関の研究者、国際NGO職員、国連機関職員等)が集まり、これまで行われてきた学校保健の実践の成果と課題を振り返り、今後の学校保健活動の推進に向けて議論をしました。私は、会議当日の運営をはじめ、事前準備として、専門家会議のテーマの選定や3日間を通した議事進行のたたき台案作り、テーマに沿った参加者の推薦等を担当しました。この会議に関わる取り組み以外では、アジア及びアフリカの国々で、WHOが他の国際機関等と共同で開発したモニタリングツールを用いて、学校で行われる栄養や運動に関する活動の実施状況についてフィールド調査を行いました。学校保健は、教育省及び保健省の双方にまたがる学際的な分野であり、長らく、活動の効果的な実施のための両省庁の連携の必要性が訴えられてきました。しかしながら、加盟国で行ったフィールド調査の結果、近年は、地方分権化が進んだことで自治省との連携が求められていたり、感染症から非感染症へと健康問題の焦点の移行が進んだり、また、小学校から中学校、そして高校の子ども達へと対象が拡大する中で、学校保健に関わる関連機関がより一層多様化・複雑化していることなどが明らかになってきました。現在、専門家会議での議論と加盟国で行ったフィールド調査の結果を基に、今後の学校保健の方向性を示す戦略文書の作成に取り組んでいます。
2)学校保健に関する技術支援としては、ケニア、バングラデシュ、ラオス、ネパールなどにおいて、学校保健の活動を担当する行政職員等が抱える現場の問題を改善するための助言等を行いました。例えば、ケニアやラオスでは、学校保健活動の実践に取り組む教員・行政官に対し、研修や教師用のマニュアル作成の支援を行いました。また、バングラデシュでは、学校保健活動に従事している日本人ボランティア(青年海外協力隊隊員)が作成した教材にコメントをする等の技術支援を行いました。
3WHOの地域・国事務所、本部内で学校保健に関わる部署、他の国連機関及び国際NGOとの連携強化に関しては、WHOの地域事務所や国事務所において学校保健を担当する職員に会って、実際にどのような活動をしていて、どのような課題があるのかを聞き取り、WHO本部が行うべき支援を明らかにしました。さらに、WHO本部内で学校保健に関わる他部署の職員と定期的な情報交換を行うネットワークの構築や、共同研究の実施、また、関連部署が行う学校保健関連の調査等に対して専門的な助言等を行いました。そして、ユニセフやユネスコ、世界銀行、国際NGO等において、学校保健に関わる関係者が情報共有のために開催する月例会議に出席し、共同で国際的な戦略文書を作成したり、各機関が作成する戦略文書等に対して専門的な助言を行う等の業務に取り組みました。
以上のような業務を通して、国際機関での勤務においては、a)何のために、誰のために働いているのかを意識すること、b) フィールドに赴き、現場のニーズと課題を知る経験を持つこと、c)自分の専門分野の重要性や活動の戦略を、専門分野以外の人と話す機会を持つこと、d)相手にとっても、自分にとっても望ましい、Win-Winなメカニズムを考えることが重要であると感じました。
バングラディシュでの学校調査
私の好きな言葉の一つに「理念・哲学なき行動(技術)は凶器であり、行動(技術)なき理念は無価値である」という言葉があります。これは、数々の名車を世界に輩出した本田技研工業の創始者、本田宗一郎氏の言葉です。国際機関での勤務を通して、改めて、何のために、そして誰のために働いているのかを考え意識し続けること、自分なりの哲学を持つことの大切さを実感しました。「何のために、誰のために」を考えていくためには、学校保健の実践現場で活動する行政官や教師、そして、子ども達とともに実践の現場に身を置き、一緒に見て、考えて、現場のニーズと課題を知る経験を持つことが極めて重要になります。現場にどっぷり浸かって、一緒に悩み、試行錯誤した経験の中で身に付けた現場に対する愛情が、1年間のWHOでの活動のモチベーションとなり、また、悩んだ時に戻れる原点になっていたと感じます。そして、自分が担当する分野の活動の重要性や活動戦略を、自分の専門分野以外の人に話す機会を持つことで、常に、自分が何をすべきか、何が強みになるのかを考えることができました。また、僅か1年の間でしたが、誰かと協働していくためには、相手の立場や役割を良く理解し、相手にとっても、自分にとっても望ましい、Win-Winなメカニズムを考えていくことが、うまく協働していくカギになるのではないかと感じました。
これから国際機関での勤務を目指す皆様、大志を抱いて、何事にも挑戦する気持ちを忘れないでください。いつか、世界のどこかで、ご一緒できる日を楽しみにしています。                                                                  初夏の信州より 友川幸

 

略歴: ともかわ さち 日本の教員養成系大学を卒業後、修士では、国際教育協力学を専攻。在学中に、JICA青年海外協力隊として、ニジェールで学校保健活動に従事。帰国後、博士では、保健学を専攻。在学中に、ラオス国立公衆衛生研究所へ留学。卒業後、総合地球学研究所研究員、ラオス国立大学の客員研究員を経て、2010年から、信州大学教育学部に勤務。在職中に、JICAの短期専門家で、ネパール、ケニア等の学校保健プロジェクトに従事。2015年から1年間、WHO本部の非感染症病および精神衛生局、非感染症予防部、ヘルスプロモーションチームで、学校保健に関するコンサルタントとして勤務

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