世界肝炎の日(7月28日)

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世界保健機関エイズ部肝炎プログラム医官
(金沢大学大学院医薬保健学総合研究科・医薬保健学域学医学類助教)
  荒井 邦明
 

728日は世界肝炎の日 (World hepatitis day) です.世界肝炎の日は、世界的レベルでのウイルス性肝炎のまん延防止と患者・感染者に対する差別・偏見の解消や感染予防の推進を図ることを目的として2010年のWHO総会で決定し、2011年から実施されている比較的新しい記念日です.2014年にWHOと金沢大学は協力協定(MoU)を結び、私はその一環として201412月から20156月までWHOGlobal Hepatitis Programme (GHP)にて業務させていただく機会をいただきました.世界肝炎の日を迎えるにあたり,この7ヶ月間の業務内容や感想を中心に,GHPのウイルス肝炎における活動を紹介させていただきます.
 GHPは,WHOのエイズ・結核・マラリア・熱帯病局内に所属しています.世界ではウイルス肝炎が原因で年間140万人以上の人々が亡くなられており、死亡者数を見ると、いわゆる三大感染症(エイズ、結核、マラリア)と比べると、死亡順位1位のエイズ、2位の結核の中間に位置します。そのため、GHPではウイルス肝炎の制圧を目指し、診断・治療指針の作成、行動計画の立案、資金・技術・人的支援などの活動に取り組んでいます。今年の世界肝炎の日のテーマは「Prevent hepatitis. Act now」であり,感染リスクの周知,安全な注射方法の確立,ワクチンや肝炎検診の普及など通じてウイルス肝炎の予防を目指しています.(http://www.who.int/campaigns/hepatitis-day/2015/en/http://worldhepatitisday.org/en
ウイルス肝炎の中で最も罹患率が高いのはB型肝炎とC型肝炎です.C型肝炎の治療は従来インターフェロン注射を主体とする治療が中心であり,改良によりウイルスの排除成功率は5%から80%へと徐々に改善してきましたが,半年間ないし1年間にわたる週1回の通院が必要で,多彩な副作用に患者・医師ともに苦悩しながら治療する状況が続いていました.この状況が20年以上続いた中,2014年に経口の抗ウイルス薬が相次いで使用可能となり、治療法が劇的に変わる瞬間を迎えています。この新しい治療薬は,注射不要で,3ヶ月間複数の薬を内服することにより95%以上の成功率でウイルス排除を可能とし,しかも副作用が軽微であるため,従来副作用のため治療の対象にならなかった人にも治療が可能になりました.まさにC型肝炎ウイルス撲滅も視野に入ったGame Changeというべき状況をもたらしています.世界基準での診断・治療が進むよう,肝炎に関連するガイドラインの作成はGHPの重要活動のひとつであり、20144月にC型肝炎ガイドライン,20153月にB型肝炎ガイドラインを相次いで発表・発刊しましたが,この新薬の登場をふまえ早急な治療ガイドラインの改訂が必要と考え、2015年内の発表を目指して改訂作業を行っています.
Global Hepatitis Programme
Team leader, Dr. Stefan Wiktor
 WHOの肝炎ガイドラインは、欧米を中心とした高所得国ではなく、患者数の多い低中所得国で実用されることを念頭に作成されます。その作成プロセスには、最新の医学知見と治療費の折り合いを考える必要があります.C型肝炎の新薬は価格が非常に高く、例えば米国では12週間の薬剤費として9万ドル(約1000万円)近くかかっています。新薬の開発には膨大な費用がかかるため薬価が高額になるのですが、この値段では低中所得国で使用することが困難です。医療資源が限られた状況でも医療現場で実現可能なガイドラインを作成するとともに、低中所得国で実際に治療薬が入手可能な仕組みもあわせて提供してくことも重要です.GHPはエイズ治療薬へのアクセスを改善した経験を生かし、ODAや複数の基金と協力して低所得国への資金・治療薬援助の枠組みを作るとともに、高価な医薬品のパテントをジェネリック会社が使えるよう促進し、安価で品質の保証されたジェネリック薬の製造といった治療薬へのアクセスを高めていく取り組みもあわせて行っています。

 ※なお,本記事の意見にわたる部分は筆者の個人的見解であることにご留意下さい.


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